エリート外科医の蕩ける治療【コミカライズ原作】
一真さんは「はあ」と小さく息を吐く。

「そもそも、そのボンキュッボンって表現がよくわからないけど」

「すみません、おばあちゃんの影響で語彙が昭和です」

「いや、そういうことを言ってるんじゃなくて。マリエに何か言われたのか?」

そう聞かれると、言い淀む。マリエ先生に挑発されたとか宣戦布告されたとか、そんなことは全然なくて、ただ「よかった」と言われただけ。だから、私がモヤモヤする必要はないはずなのに、この心のざわめきは何なのだろう。

何かが引っ掛かって、それが元で不安になって、心配になって、一真さんに対して責めるような口調になってしまう。

「一真さん、マリエ先生と何で別れたの?」

「……好きじゃなくなったから」

「マリエ先生と何があったの?」

「別に何もないよ」

「何もなくて別れないですよね。マリエ先生が言ってました。治ったんだ、よかったって」

「……」

「何で目をそらすの。何か隠してる? やっぱり一真さん病気?」

「何でもないって言ってるだろ」

「だって!」

「しつこい!」

しん、とお互い口をつぐんだ。店内にかかるBGМだけが、陽気にメロディーを奏でている。

言い合いをしたかったわけじゃない。ましてやケンカをしたかったわけじゃない。それなのに、ピリピリとした気まずい空気が流れている。

ふいに自動ドアが開いて、お客さんが入ってきた。一真さんは「戻る」と一言小さく呟いてから、私と目も合わさずお弁当も持たず、病院へ戻って行った。

モヤモヤした気持ちが大きくなって、今にも張り裂けそうで泣きたくなる。あんな風に怒るなんて思わなかった。でも私も一真さんのことが知りたかった。マリエ先生は私の知らない一真さんを知っている。あの言葉の意味が知りたくて……。

『しつこい!』

一真さんの強い口調が頭の中に何度も響く。
一真さんに嫌われちゃったかな? 元カノのことなんて聞かれたくなかったよね。私だって元彼のこと、あれこれ聞かれたくないし。

ああ、やってしまった。
自己嫌悪だ。
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