エリート外科医の蕩ける治療
佐々木先生のありがたいお言葉を胸に、仕事が終わって家に帰ってから大量の唐揚げを揚げた。唐揚げだけじゃない、他のお惣菜もたくさん作って重箱に詰めこむ。

一真さんのお仕事は今日も忙しいのかもしれないけれど、ひとまず『仕事終わったら連絡ください』とだけメッセージを送っておいた。

連絡をくれるかわからないけれど……。

魔法のアイテムであるシュークリームは、近くのコンビニで買い占めた。買い占めといっても3個しかなかったから、これじゃ少ないような気がしたけれど、ひとまずアイテムを持っているに越したことはない。

そんなに遅い時間じゃないのに、連絡を待つのってどうしてこんなに長く感じるんだろう。いつもだったら何とも思わないのに。来るか来ないかわからない連絡に、やきもきする。鳴らないスマホを前に、正座をして真っ暗な画面をじっと見つめる。

連絡がほしい。
連絡がほしい。
連絡がほしい。
連絡よ、来い!

ふいにスマホが震えだし、ビクッと肩が揺れた。画面に表示されるのは【清島一真】の文字。あんなに待ち望んでいた一真さんからの連絡なのに、いざ連絡が来ると緊張で上手くスマホを持つことができない。

あわあわしながら「も、もしもし」と出れば、鼓膜を揺るがす待ちわびた声が届いた。低くて甘い、だけど今日はちょっぴり素っ気ない。

『仕事終わった』

「お疲れ様です。あの、今からお家行ってもいいですか?」

少し間が開いてから『いいよ』と許可が下りたことにほっとする。唐揚げをパンパンに詰め込んだ重箱とシュークリームを持って外に出た。夜風が冷たく吹き抜けていくけれど、今日は寒さなんて感じない。

一真さんのマンションはもう何度も訪れている。それなのに今日は、心臓が口から飛び出そうなくらい緊張している。行って、拒否されたらどうしよう。

そんな不安を抱えながら、インターホンを押した。

ピンポーンと軽快な音が鳴り、目の前のカメラを見つめてドキドキとその時を待つ。しーんとして反応がない。

あれ?
お家行ってもいいよって言ってたよね?
もしかして私の聞き間違い?
幻聴だった?
それとも脳内一真さんが勝手に返事してた?

「杏子」

背後から声が聞こえて飛び上がるほどびっくりした。振り向けば、一真さんが立っている。
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