エリート外科医の蕩ける治療
15.ずっと謝りたかった side一真
同じ外科医の林先生が体調を崩されて長期入院となった。その穴を埋めるべく毎日忙しくしていたら、すっかり社畜化していた。それでも杏子とは少なからず連絡を取っていたし、何も問題など感じていなかった。

杏子のご飯が恋しいなとか、そんなことは思っていたけれど。

「非常勤の医師が見つかったよ。明日から来るからよろしく」

理事長に言われて、ようやくかよと安堵したのも束の間、翌日その非常勤医師と顔を合わせて何かが崩れ落ちる音がした。

「高倉マリエです。よろしくお願いします」

自信に満ち溢れ、目を引く美人。結婚したのか、名字こそ違えど、高倉マリエは俺にトラウマを植え付けた張本人だ。そんなマリエは、俺のことを親しげに一真と呼んだ。

「先生たち、お知り合いですか?」

「一真とは同級生なの。ねっ」

「ああ、同級生だ」

それ以上でもそれ以下でもない。俺の中では元カノであるという事実は消したいほどのもの。そうは言っても、マリエだって結婚しているんだから過去のことは掘り起こさないと思っていた。

それなのに――

「ねえ一真、ちょっと小耳に挟んだんだけど、彼女いるんだ?」

「は? ああ、そうだけど」

「やっぱりそうなんだ。よかったね」

「そりゃ、どうも」

含みを持たせた言い方が気に食わなかったが、それは俺が勝手にそういう風に捉えてしまっただけかもしれないと自分を戒める。

イライラした。元カノと同じ空間で働いているというだけでも罰ゲーム状態なのに、仕事も大して減らないしずっと杏子にも会えていない。

無性に杏子に会いたくなって、どうにか時間を捻り出して遅い時間に弁当屋へ足を運んだ。

店に入ると杏子が上の空で何か考えている様子だった。相変わらずの杏子の不思議な行動が、妙に落ち着く。あー、杏子だーと笑みが漏れた。

「何してるんだ、杏子?」

「私はわがままボディですからね」

「何の話?」

「はっ、一真さん!」

「また別世界に行ってた?」

杏子は顔を赤らめながら、そんなんじゃないと反論したが、完全にそんなんだっただろう。

だけど今日の杏子は何か言いたげに、俺をじっと見つめた。
< 104 / 113 >

この作品をシェア

pagetop