エリート外科医の蕩ける治療
16.だって好きだから side杏子
ローテーブルの上にお重を広げた。取り皿とお箸も準備する。いつか買い揃えたお揃いの食器。一真さんが食器棚から取ってくれて、私がテーブルに並べる。

ちょっとした共同作業がとっても嬉しい。一真さんと一緒にできるってことが、今の私には嬉しくて仕方がない。仲直りできてルンルンな私に対して、一真さんは少し神妙な顔つき。まだ怒っているのかなと思ったけど、ちょっと違うみたいだ。

「すごいな、こんなに作ってきたのか?」

「一真さんお腹空いてるかなって思って。あとはごめんなさいの気持ちも込めて……」

えへへと笑うと、一真さんは苦しそうな顔をした。その真意がわからなくて、首を傾げつつも見なかったことにする。これ以上のいざこざはいらない。私は一真さんと仲良くいたいから。

「さ、食べましょ」

ローテーブルの前に座った一真さんの隣に、私もちょこんと座る。お箸を手に取ると同時に「杏子」と名前を呼ばれた。

「食べる前に、話がある」

一真さんのあまりにも神妙な顔つきに、お箸をもう一度テーブルに戻す。物々しい雰囲気に、ごくりと息を飲んだ。

しん、と静まり返る。いつもは気にならない壁に掛けられた時計の秒針が、チチチ……と刻む音がする。次に一真さんが口を開くまで、きっとそんなに時間は経っていなかったと思うのに、ずいぶんと長い間、沈黙が流れた気がした。

「……杏子に、嘘をついてることがある」

「……嘘?」

「杏子を傷つけてしまうかもしれないけど、聞いてほしい」

ドクンと心臓が嫌な音を立てた。だけど私は無言でコクンと頷く。不安と緊張で、胸の辺りをぎゅうっと握った。

「俺、本当は病気持ちなんだ」

「……何の病気?」

「……ED」

「いーでぃー……?」

なんか聞いたことあるような、ないような。
右手の人差し指と左手の人差し指の先端をピッとくっつける。いや、違う。それは宇宙人と友達になる、E.T.って映画だ。

いーでぃー、いーでぃー、エンディング……。エビフライどんぶり……。絶対違う!

一体何の病気だというの?!

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