エリート外科医の蕩ける治療
自動ドアが開くと、インターホンの前に杏子が立っていた。大きな荷物を持って、カメラを覗いている。どこも寄り道しなかったのに、杏子の方が先に着いているとは。

「杏子」

声をかけると杏子は目をまんまるに開いて、飛び上がらんばかりに驚いた。

「一真さん」

「早いな」

あわあわする杏子は、大きな荷物ごとガバッと頭を下げて「一真さん、今日はごめんなさい」と謝ってきた。杏子が謝ることは何もないのに、泣きそうな声を出す。

「私、無神経だった。知りたいばっかりで、一真さんの気持ち全然考えてなかった。元彼女のことなんて聞かれたくないよね。よく考えたらそうだなって思って。私だって元彼といい思い出ないし、人に話したくないこといっぱいあるのに。自分の感情押しつけてごめんなさい。……ご飯、作ってきたの。よかったら食べて。あと、これも」

大きな荷物を強制的に握らされる。ずっしりと重い。杏子はどんな気持ちでこれを作って持ってきたのだろうか。考えただけで胸が苦しくなる。俺は杏子に謝ってほしいわけじゃない。謝らなければいけないのは俺の方なのに。

帰ろうとした杏子の手首を咄嗟に掴んだ。
振り向いた杏子は驚いた顔をしている。視線が合うと、そのうちに杏子の瞳がゆらりと弧を描いた。今にも涙がこぼれ落ちそうになっている。

杏子みたいに上手く謝れる気がしない。
だけど、せめてまず一言謝らせてくれ。

「……俺の方こそ、ごめん。あんな言い方して」

「……」

「杏子も一緒に食べよ」

手を握ると、杏子はコクッと頷いた。ぎこちない、だけど少しだけ胸の支えが取れるような気がする。やっぱり俺は杏子がいないとダメみたいだ。

だからこそ、ちゃんと伝えるべきなんだろう。
杏子を騙していたこと。
俺の本当の気持ち。
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