エリート外科医の蕩ける治療
2.だってお医者さんだから、治療ですよね? side杏子
焼鳥屋を出てから、清島さんと手を繋いでいる。
清島さんの大きな手は、しっかりと私を包み込む。

ドキンドキンと心臓が暴れていて、今にも口から飛び出してきそう。

何か治療法はないのかと聞いたのは私。それに対して清島さんは症状を把握したいと言ってくれた。私の積年の悩みについて、初めて真剣に向き合ってくれる人が現れたのだ。

こんな事情じゃなきゃ、清島さんと手を繋ぐことなんてない。ましてや体の関係を持つなんて、ありえない。

「これは普通の診察とは違って、じゃあ診るぞってものではないから、設定を作ろう」

「設定ですか?」

「そうだ。今夜は俺たちは恋人設定だ」

「恋人?! なんか、ドキドキしますね」

嘘。本当はもっと前から、ドキドキが止まらなくて困っている。さらに恋人設定だなんて、清島さんはイケメン顔でとんでもない事を言い放つ。これが症状把握するためじゃなかったら、危うく勘違いしてしまうところだ。

「ドキドキか。いい傾向なんじゃないか? 脳の偏桃体が反応している証拠だな」

「すごい、お医者さんっぽい」

「……一応医者なので」

ふっと清島さんが笑う。つられて私も笑った。

駅前のラブホテル。キラキラとしていてオシャレな内装。ここがラブホテルだって言われなきゃわからない。数年前に初めて経験したときも、ラブホテルだった。あのとき以来の、訪問。(場所は違うけれど)

「うわぁ、すごいおっきいベッド! うわぁ、このお風呂泡が出るらしいですよ! あっ、これなんだろう~?」

「めちゃくちゃ楽しんでるな」

「あっ。ごめんなさい。これから先生に診てもらうのに」

「まあ、いいんじゃないか。楽しいほうが緊張もほぐれていいだろ」

清島さんはおかしそうに眉を下げた。

「先生、どうしたらいいですか?」

「え?」

「服を脱いだらいいですか?」

私はひとまずコートを脱ぐ。診てもらうためには服を脱がなくちゃいけないわけで……。ああ、緊張する。

スカートに手をかけたところで、清島さんが慌てて私の手を掴む。
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