エリート外科医の蕩ける治療
「ちょっと、待て!」

「?」

「あー、えーっと、その、なんだ。濡れるって意味わかってる? この状態で濡れてるとか、ないだろ?」

「ないんですか?」

「……ないとは言い切れないけど、……って杏子。どうしたら濡れるのか言ってみて」

「ええっ?!」

「知識として持ってるのか聞いているだけだよ。念のための確認だ」

そ、そっか。そうだよね。清島さんと認識合わせは大事だよね。私はうむむと考える。どうしたら濡れるのか、そんなこと考えたこともなかったけれど、濡れない私は答えが間違っているのかもしれない。ここで知識を深めれば、私も濡れることができるのかも……!

「えっと、なんかイチャイチャしたら濡れます」

「うん。じゃあ杏子の思うイチャイチャって、どんなこと?」

「ええっ?」

私は必死に考える。イチャイチャって何だっけ? どんなことがイチャイチャに当てはまるんだっけ? 最近見たドラマとか漫画を必死に思い出す。

ダメだ、全然思い出せない。なんならもう、告白した後にキスしてベッドインしてる。これがイチャイチャ? イチャイチャといえばそうなのかもだけど……。いやいや、なんか違うよね?

ああー、正解がわからないっ!

「ぷっ、くくく……」

頭を抱えていると、急に清島さんが吹き出した。

「杏子、真剣なことは伝わってきたけど、考えすぎだろ。顔が百面相……ははっ」

「だって、難しい。正解は何ですか?」

「正解なんてあってないようなものだろ。感情は人それぞれなんだから」

「えー、そんなの、何だか騙された気分」

「騙してないよ。俺は、杏子に触れただけでもイチャイチャだと思ってるよ」

清島さんは私の手を握る。大きくて温かい手。触れているのは手だけなのに、自分と違う体温がそこにあると感じるだけで心臓がトクンと揺れた。
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