エリート外科医の蕩ける治療
「治療? これは治療だったのか?」

「だってお医者さんだから、治療ですよね? 次はいつしてくれますか?」

「は?」

「治療。あ、診察?」

「おまっ、自分が何言ってるかわかってるのか?」

馬鹿なこと言ってるって自覚はある。だけど永年のトラウマが解消されかけているのだ。こんな奇跡に縋りつきたいって思う気持ちに嘘はつけない。

清島さんは困ったように前髪をかき上げる。ほどよく引き締まった腕や胸板は、改めて見るととても色っぽくて目のやり場に困る。そういえばお互いまだ裸なのだ。するすると控えめにシーツを手繰り寄せて、胸のあたりでぎゅっと握った。無言の間が、羞恥と緊張を高めていく。

「あー……。じゃあ次も考えるけど……」

「はいっ!」

「だけどこれは特別診療だからな、誰にも言うなよ」

「わかりました」

嬉しくて顔が綻ぶ。治るかもしれない明るい兆し。ものすごく満たされた気持ちに胸がいっぱいになる。

「あっ、そうだ。先生、診察代はおいくらですか?」

「……杏子、お金持ってないんじゃなかった?」

「手持ちはないだけですよ」

家に帰ればあるし……。
って、もしかして特別診療だから、ものすごく高かったりする? どうしよう、法外な値段提示されたら払えないかも。

「せ、先生。ローンは組めますか?」

「ローン? 何を言ってるんだ?」

「だって特別だから、ものすごく高い気がして……」

きょとんとした清島さんは突然ぷっと破顔して、お腹を抱えてケラケラと笑い出した。一人だけとても楽しそうだ。私は真剣だというのに。

「くくくっ、杏子、それ本気で言ってる?」

「ほ、本気ですよぅ!」

「あはは!」

「なんで笑うんですか!」

「想像力豊かだなあと思って。そうだな、特別診療だからな、プライスレスだ」

「それって、ローンも無理なんじゃ……」

「そう。だから、二人だけの秘密だ」

「秘密……」

「誰かに漏らしたら、呪いが発動する」

「呪い?!」

「あはは! なんで信じるの?」

「え、嘘? え、何が本当? からかってる?」

清島さんが楽しそうに笑う。からかわれて悔しいのに、清島さんの笑顔が眩しすぎて胸がドキンと高鳴った。

え……。なにこれ、ドキンって。
新しく芽生えた自分の感情に戸惑う。それを隠すように、私も笑った。
この時間がとても尊いもののように思えた。
< 17 / 113 >

この作品をシェア

pagetop