エリート外科医の蕩ける治療
3.トラウマ持ちの葛藤 side一真
医師として働くこと数年、実家近くの大病院に異動になり、久しぶりに地元に戻ることになった。それを聞きつけた同級生が久しぶりに会おうなどと誘ってくるから、軽い気持ちで指定された飲み屋に行ったのに、何故かそこには向かい合わせに女性が四人座っていた。

合コンの人数合わせのために呼ばれたのかと気づいた時には、時すでに遅し。面倒くさいなと思いつつ席に座る。そして女性たちは、俺が四月から赴任する神木坂総合病院の看護師たちだと聞き、さらに面倒くさいと思った。

だけど目の前の彼女は「あ、私は違います」ときっぱりと否定。

「杏子さんはお弁当屋さんで働いていて、私たちは神木坂総合病院の看護師なんです」

そう別の女性が説明すると、目の前の彼女は一瞬顔が曇った。でもすぐにヘラっと笑って料理に手を付ける。気のせいかな、と思ったけれど――。

「マジ? 一真も新しく赴任する病院、そこじゃなかった?」

「……ああ、まあ」

「わっ、すごい偶然! 専門は何ですか?」

「ちょっとちょっと、一真、後から来たくせに一人で話題を掻っ攫ってくなよ」

勝手に俺の赴任先で盛り上がる中、“あんこ”と呼ばれる彼女は一人黙々と料理を取り分け全員に配っていく。まさかこし餡とか粒餡のあんこじゃないよなと思ったら、杏子だった。そりゃそうだよな。

気が利くだとかお姉さんみたいな存在だとか、家庭的だとか褒め上げられて、杏子は興味なさそうにヘラっと笑った。

だけど――

「杏子さんはいつもいい匂いがするの」

「いいにおい?」

「そう! 揚げ物のにおいかなー? 美味しそうですよね」

「揚げ物って。ウケるんだけど」

どっと笑いに包まれる。杏子はまた一瞬顔を曇らせたけれど、一緒になって笑った。俺にはそれが泣いているように見えた。顔は笑っていたのに。

そう考えると、もしかして杏子も合コンに付き合わされたクチだろうか。付き合わされた上に笑われて、散々じゃないか。

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