エリート外科医の蕩ける治療
どんよりと暗い雲に覆われて、今日は天気が悪そうだ。そんな重たい空気の中――

「はぁー」

過去一大きいため息が、自分の口から吐き出された。ますます空気が重くなる。

ラブホから朝帰りとか、何をしているんだ俺は。

杏子と何もなかったように別れてから自宅に戻った俺は、そのままソファに倒れ込んだ。頭の中は昨晩の出来事で埋め尽くされている。

『先生。私、実は不感症なんです』

手をぎゅっと握りしめて真剣に訴える杏子に、驚かないわけがない。正直、何を言い出すんだと引いた。だけど杏子の必死な顔を見て、俺の中のトラウマも思い出したかのように顔を出す。

そして杏子の話を聞きながら、勝手に自分のトラウマと重ね合わせてしまっていた。

『不感症で濡れないから、つまらないって言われて、それ以来怖くて誰ともお付き合いできないんです』

相手の言葉がきっかけで心に傷を負う。本当にショックで腹立たしいし、気にしなければいいのにと思いつつも、気にしてしまう。トラウマから抜け出したいのは俺も同じだった。

数年前、俺も付き合っていた彼女に言われたのだ。直接ではなく、彼女が男友達に愚痴っていたのをたまたま聞いてしまった。

『一真ってエッチ下手なんだよね。今まで一度もイケたことないよ。やっぱり体の相性って大事なのかも』

それがきっかけで彼女としようとすると勃たなくなった。いわゆるEDってやつだ。どう考えても原因は心因性のもの。

案の定、彼女は汚いものでも見るかのように、俺の下からさっさといなくなった。それ以来、誰かと付き合うのが怖くなった。ちょうど仕事も忙しかったし、治そうと思う気持ちも薄れていった。そしてそのままずるずると月日が流れていたのだ。

だから杏子に、思いきり自分を重ね合わせてしまった。

『だってこんなのどうやって治したらいいかわからないし、料理みたいにちょっとやってみようって、試すことだってできないでしょう?』

まさにそのとおりで、勝手に杏子を同志だと決めつけた。それにとどまらず、とんでもなく悪い考えを思いついてしまったのだ。

杏子で試したらいいんじゃないかと――
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