エリート外科医の蕩ける治療
翌朝、ぐすっとした泣き声で目が覚めた。どうやら俺もぐっすりと寝てしまったらしい。隣でめそめそと泣く杏子に焦って飛び起きる。

『杏子、どうした?』

『先生……』

『ごめん、やっぱり嫌だった?』

さすがに調子に乗りすぎたか、はたまたアルコールが抜けて冷静になったのか、昨夜の情事を後悔しているのかと思った。なのに――

『違うんです。濡れました。私、濡れましたよね?』

ガシッと腕を掴まれ、その剣幕に息を飲む。そして何より、お互い裸の状態。恥じらいはどこにいったのか、ポロリと胸が見えている。目のやり場に困るのに、俺が答えるまで杏子は腕を離してくれない。

『先生の魔法? 先生は名医なの? 私、治ってるってことですよね?』

治っているのかどうかと言われれば、杏子も俺も満足いく結果だっただろう。それに杏子に限っては、杏子が悪いわけじゃなくきっと相手が思いやりも何もない自分本位なセックスをしたから「濡れない」と表現したんだろうなと思った。

俺はどうだろうか。普通に反応してしまって、驚いたというかなんというか……。だからこれを、治っていると言っていいのか、それとも、たまたまだったのか、俺には判断できなかった。というより、次もできる自信がなかった。

『一回だけじゃ完治したかはわからないだろう?』

あたかも杏子のことを考えた発言のようで、実は自分自身への言い訳だった。それなのに杏子はすべて真に受けて真剣に考えこむ。そしてまた突拍子もないことを言った。

『あの、よかったらまた治療してもらえませんか?』

『治療? これは治療だったのか?』

『だってお医者さんだから、治療ですよね? 次はいつしてくれますか?』

『は?』

『治療。あ、診察?』

『おまっ、自分が何言ってるかわかってるのか?』

真剣すぎて、ごくりと息を飲む。俺は自分の身勝手な感情で杏子を都合よく利用しただけなのに。杏子は俺を信頼しているという発言だ。ズキンと胸が痛んだ。それなのに知らぬ間に杏子のペースに乗せられていく。
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