エリート外科医の蕩ける治療【コミカライズ原作】
でも、清島さんと普通に会話ができてよかったとも思っている。嫌われてなかったんだなって思えたから。

『診察、しようか』

この言葉にどれほど安心したかわからない。初めて診察してもらって無事に濡れてよかったけれど、それとは別に、清島さんも私のこと臭いって思ってたら嫌だなって思っていた。だから次の診察がないのかもなんて、どんどん悪い方に考えてしまって自己嫌悪にもなった。

「……大丈夫だよね?」

自分の服の袖をくんくんと嗅ぐ。
思いきり揚げ物の香り。お腹が空く。

「……美味しそうだけども!」

自分自身に突っ込んだ。笑ってくれる人はいない。笑ってくれたらどんなに楽だろうか。

「何が美味しそう?」

「えっ? あー、えーっと。どうしても服に匂いがついちゃうなぁって」

「まだ気にしてるのか? それは仕事をしている証拠だろう?」

「う……」

それはそうかもしれない。この仕事をしてる以上、そうなるのは当たり前のことで……。

ふいに清島さんが少し屈んで私の首元に顔を寄せた。ビクリと肩が揺れる。

「杏子のこと食べたいくらい、美味そうなにおいがする」

「――!」

そんなことを耳元で言うものだから、清島さんの低くて甘い声が意図とせず鼓膜を震わせる。

食べたいって、食べたいって、どんな――!

また不埒な想像がむくむくと湧き上がり、それを打ち消すためにあわあわとあちこちを見回す。何を想像しようとしてるの、私は。体の奥がじんと疼いて無性に叫びたくなる。

「あ、あ、あ、あのっ、先生、唐揚げ余ってるので食べますか?」

「追加注文?」

「さ、さ、さ、サービスです!」

慌てて清島さんから距離を取ると、パックにキャベツと唐揚げを二個盛り付けてずすいっと差し出す。

「いいの?」

真っ赤な顔でコクコクと頷くと、清島さんは「ありがとう」と目を細めた。

ドッキンと胸を撃ち抜かれたような気がして、胸のあたりをぎゅうっと握りしめる。収まりそうにないこの胸のときめきは一体どうしたらいいんだ。
それに――

『杏子のこと食べたいくらい、美味そうなにおいがする』

ニオイのこと言われるのは嫌だったはずなのに、どうしてか清島さんにそう言われるのは嬉しくて胸が弾む。まさか嬉しいって思える気持ちがあっただなんて……。
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