エリート外科医の蕩ける治療
「杏子さんはお弁当屋さんで働いていて、私たちは神木坂総合病院の看護師なんです」

わざわざ紹介してくれなくてもいいのに、看護師の桜子さんが「ね」と私に微笑むので曖昧に笑い返した。

「マジ? 一真も新しく赴任する病院、そこじゃなかった?」

「……ああ、まあ」

「わっ、すごい偶然! 専門は何ですか?」

「ちょっとちょっと、一真、後から来たくせに一人で話題を掻っ攫ってくなよ」

どうやら看護師である女性陣が働く病院に、清島さんが四月から赴任するらしい。私は興味がなさすぎて、一人黙々と料理に手を付ける。この卵黄が絡んだつくねなんて、実に美味しそうではないか。みんなも早く食べないと冷めてしまって美味しさが半減してしまうのに。

店員さんが新しい料理を運んでくる。全然食べていないテーブルの上には大皿がどんどん並んでいく。居たたまれなくなった私は、それぞれの取り皿に料理をつけ分けていった。

「わあ、さすが杏子さん。気が利きますね」

「杏子ちゃんは皆より年上なんだっけ?」

「そうなんです。お姉さんみたいな存在なんですよ」

「いつも頼りにしてるんです。ね、杏子さん」

「杏子さんは家庭的でいいですよね」

「あー、そうかな? ありがとう」

へらっと笑っておく。たぶんこれが正解。皆より年上で家庭的アピールしてポイント稼ぐ腹黒い女だと思われてた方が、楽だ。男性陣の興味は私を外れていくから。

まあ、そもそも私なんかに興味ないでしょうけども。

「杏子さんはいつもいい匂いがするんです」

「いいにおい?」

「そう! 揚げ物のにおいかなー? 美味しそうですよね」

「揚げ物って。ウケるんだけど」

どっと笑いに包まれた。私もははっと愛想笑いをする。だけど本当は笑えない。軽くトラウマなネタで笑いを取らないでほしい。

でもまあ、我慢我慢。この合コンは彼女たちの合コンだもんね。私は別に出会いを求めてないし。



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