エリート外科医の蕩ける治療
5.癒してあげたいと思った side一真
神木坂総合病院には職員のための食堂が昼だけ営業している。ただ、経費削減の一環で今年度から営業時間が短縮された不満続出の食堂だ。事務職員は問題なく時間内に食べられるが、医師と看護師は少しでも遅くなると食堂が閉まっているというどうにも不便な営業時間。

外来診察の後、緊急呼び出しですっかりと昼の時間を逃してしまった俺は、ダメ元で食堂へ足を運んだ。残念なことに、完全に営業終了していてガックリと肩を落とす。

「……まじか」

一食抜くくらいどうってことはないけど、一応院内の売店も覗きに行こうかと階段を降りた。

「あっ、一真!」

俊介(しゅんすけ)?」

大学のときの同級生で、小児科医の佐々木俊介とバッタリ出くわす。学生時代から爽やかで物腰柔らかい俊介は、小児科で子どもたちに人気らしい。午前中の外来診察の忙しさを微塵も感じさせない爽やかオーラに、俺は顔を顰めた。

「人の顔を見るなり嫌そうな顔するなよ」

「俊介は疲れ知らずだなと思っただけだ。なあ、俊介は食堂閉まってたら昼飯どうしてる?」

「何だよ、食いっぱぐれたのか?」

「ああ。経費削減とか言うけど、閉まるのが早すぎる」

「だな。でもいいんだよ、とっておきの場所があるから。俺も食いっぱぐれ組だからさ、一緒に行くか? とみちゃんの弁当屋」

「とみちゃんの弁当屋?」

指さす先は、病院の外。そういえば杏子も病院の向かいの弁当屋に勤めていると言っていたか。……まさか、そこじゃないだろうな?

「ちょ、まっ――」

「ここに勤めてるなら絶対紹介しておかないとな」

俊介は紹介する気満々で歩き出す。行かない選択肢は与えられていない。杏子に会いたいような会いたくないような……。

自分のやましさが呼び起こされ、情けないことに胸がつぶれそうになる。だって、あれ以来連絡をすると言いながらしていないのだ。

どんな顔して会えばいいんだよ――

外は春らしく暖かく穏やかな気候。俺の隣には春に負けないくらい穏やかな俊介。俺の心だけが春の嵐のように吹き荒れている。
< 31 / 113 >

この作品をシェア

pagetop