エリート外科医の蕩ける治療
6.もしかして診察してくれるんですか? side杏子
とみちゃんのお弁当屋は、夕方には残ったお弁当を値引き販売して早々に閉店となる。私は実家の料亭もときどき手伝っているから、夜は料亭で働くことも多い。バイトを掛け持ちしているような働き方だ。
料亭では簡易的な着物が制服で、お弁当屋とはちょっと違った雰囲気。帯を締めるときゅっと身が引き締まる気がする。束ねた髪もお団子に。
「焼物出来上がりました。5番さんへ」
「はーい」
「ああ、杏子。5番さんは結婚の顔合わせらしいわよ。いいわよねぇ、幸せそうで。杏子はいつ結婚するのかしら?」
「はいはい。うちはうち、よそはよそ。お母さんいつもそう言ってるでしょ」
「こればっかりは心配よ。杏子にもいい人いないかしら」
「そのときになったらちゃんと紹介するから。首を長くして待ってて」
母の相手を適当にしてから、香ばしく焼かれた銀鱈の西京焼きをお盆にのせた。鮮やかな色のハジカミが彩を添え、とても美味しそうだ。それを5番の部屋へ運ぶ。
それにしても、料亭で結婚の顔合わせや結納があるたびに、母は私にプレッシャーをかけてくる。私だっていつかは結婚したいけれど、あんなトラウマがあるんだから無理だと思っている。けれど清島さんに診察してもらってから、少し光が差したというか、結婚できるかもしれないなんて期待も芽生えたりしていて……。
「失礼いたします」
5番の部屋の襖を開けると、まさかの知っている顔にギクッと顔が強張った。テーブルに向かい合わせに座る二家族。顔合わせだからか、和やかな空気の中に少し緊張した面持ちが見受けられるのだが……。
しかし驚いた。男性と目が合うと、あちらも目を見開いて驚愕の顔をしているし。いやいや、驚いたのはこっちなんだから。なんでわざわざ結婚の顔合わせに元彼女の実家の料亭を選んじゃったんだろう、元彼氏は。
ため息を吐きたくなるのを我慢して営業スマイルを顔に貼り付けて接客をし、いそいそと部屋を出た。別に元カレが結婚しようがどうだっていいけれど、やっぱり気まずいものは気まずい。特に私にトラウマを植え付けた張本人なのだから。
料亭では簡易的な着物が制服で、お弁当屋とはちょっと違った雰囲気。帯を締めるときゅっと身が引き締まる気がする。束ねた髪もお団子に。
「焼物出来上がりました。5番さんへ」
「はーい」
「ああ、杏子。5番さんは結婚の顔合わせらしいわよ。いいわよねぇ、幸せそうで。杏子はいつ結婚するのかしら?」
「はいはい。うちはうち、よそはよそ。お母さんいつもそう言ってるでしょ」
「こればっかりは心配よ。杏子にもいい人いないかしら」
「そのときになったらちゃんと紹介するから。首を長くして待ってて」
母の相手を適当にしてから、香ばしく焼かれた銀鱈の西京焼きをお盆にのせた。鮮やかな色のハジカミが彩を添え、とても美味しそうだ。それを5番の部屋へ運ぶ。
それにしても、料亭で結婚の顔合わせや結納があるたびに、母は私にプレッシャーをかけてくる。私だっていつかは結婚したいけれど、あんなトラウマがあるんだから無理だと思っている。けれど清島さんに診察してもらってから、少し光が差したというか、結婚できるかもしれないなんて期待も芽生えたりしていて……。
「失礼いたします」
5番の部屋の襖を開けると、まさかの知っている顔にギクッと顔が強張った。テーブルに向かい合わせに座る二家族。顔合わせだからか、和やかな空気の中に少し緊張した面持ちが見受けられるのだが……。
しかし驚いた。男性と目が合うと、あちらも目を見開いて驚愕の顔をしているし。いやいや、驚いたのはこっちなんだから。なんでわざわざ結婚の顔合わせに元彼女の実家の料亭を選んじゃったんだろう、元彼氏は。
ため息を吐きたくなるのを我慢して営業スマイルを顔に貼り付けて接客をし、いそいそと部屋を出た。別に元カレが結婚しようがどうだっていいけれど、やっぱり気まずいものは気まずい。特に私にトラウマを植え付けた張本人なのだから。