エリート外科医の蕩ける治療
あわあわと自分の考えを打ち消すように、話題を変える。

「せ、先生はどうしてここに?」

「ああ、理事長に食事に誘われて。まさかここに杏子がいるとは思わなかったけど」

「あはは。そうですよねぇ。私もまさか先生がうちで食事されているとは思ってもみませんでしたよ」

「うち?」

「はい、この料亭、両親が経営しているんです。だからときどき手伝ってて」

「へえ。杏子って働き者なんだな」

「えっ。先生ほどではないですよ」

「俺はそんな働き者じゃないよ」

「でもいつも忙しいじゃないですか。この前も急患で呼び出されていたし」

と言ったところで、ハッとなる。
そういえば私の次の診察日、決まってない。あの日、決めようとして結局決める前に清島さんは病院に戻ってしまった。清島さんは忙しいし、催促もできないし、今日だって理事長と食事されているし……。って理事長?! 神木坂総合病院の?! まさか呼び出し? 一体何をやらかしたの、清島さーん!

「杏子、また何か想像してない?」

「何をやらかしたんですか、先生!」

「何を言っているんだ?」

「理事長に呼び出されたんですよね? ちょっと体育館裏来いみたいなやつ。ひぃっ!」

「はっ? 何を言い出すかと思えば、くっ、くくくっ、杏子って本当想像力豊かだな」

突如としてお腹を抱えて笑い出す清島さん。えっと……何か面白かった? 私はぽかんとする。

「違うの?」

「ははっ、違うよ。そんなんじゃない」

「そうだったんだ。よかった」

「勝手に想像して勝手に心配かよ。本当、杏子って可愛いよな」

「へっ? かわいっ――!」

きっとボフンと音がした。恥ずかしさが最高潮に達して、頭が爆発したみたいだ。

「な、な、な、な、な、なにを――」

「今日仕事何時まで?」

「えっ? えと、二十二時くらいかな?」

「じゃあ、そのあとに、どう?」

「ど、どどどど、どうとは?」

「診察、しようか」

本日二度目のボフン――!
やばい、やばい、やばい。まさかの診察。体の奥がぎゅんってなって、じゅわってなって、なんかもう、ダメ!

それなのに、しっかりと頷いていた。
だって、心の奥底では次の診察を期待していたからだ。
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