エリート外科医の蕩ける治療
いや、まさかでしょ。まさか今日が二回目の診察日になるなんて、想像していなかったというか、むしろいいんですか、本当に?状態の私。

あの後テンパり過ぎてどう仕事をこなしていたのか記憶がない。なんなら元彼と出会ってしまったこともどうでもいいくらい、私の頭の中は清島さんのことでいっぱいになった。

ずっと、ドキドキしている。

だって、診察って、また清島さんの綺麗な肉体美が見られるってこと……はっ! また何を想像しているの、私は。清島さんがどうこうじゃなくて、自分が濡れることを気にしなくちゃいけないのに。

私、また濡れるかな?
あの時みたいに、びしょびしょに――

だからっ、何を想像してるの。
落ち着け、私の頭の中。

煩悩退散!
心頭滅却すれば火もまた涼し!
チーン!

「……杏子。なぜ合掌?」

「私は今、修行僧なのです」

「こっちの世界に戻ってきてもらってもいい?」

「はっ、先生! いつの間に?」

「杏子が面白すぎてずっと見ていられるな」

くくっと清島さんが笑う。月明かりの下、スーツを着こなしたスラリとした姿が神々しすぎて、私はまた合掌。

「俺を拝むなよ」

「いえ、もう神様にしか見えず」

「まったく」

合掌していた手を取られ、ぎゅっと握られる。意図とせずそんなことをするものだから、驚いて清島さんを見た。

「……診察日は恋人設定、だろ?」

「そうでした」

納得してみせたものの、心臓が思いのほかドキドキしてしまって困る。清島さんの大きくて節ばった手はとても男らしくて、私の手を包みこんでしまう。あったかくて、なんかいいなって思って、この繋いた手がとても尊いものに思えて……。

離したくないなんて言ったら、清島さんは困っちゃうだろうな。

「なに?」

「ううん。先生の手あったかいなーって」

「杏子の手は柔らかいな」

「……またそうやってドキドキさせる」

「ドキドキしたほうがいいだろ?」

「オキシトシンだっけ?」

「おっ、偉いな。学習してる」

「ふふん」

「ふっ、得意気」

「完治目指してるんで!」

「そうか、じゃあ主治医として頑張らないとな」

清島さんはくくっと笑ってから、繋いでいた手をぐっと引き寄せる。そしてそのまま私の手の甲にキスを落とした。
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