エリート外科医の蕩ける治療
7.それは好きという感情 side一真
「一真、忙しそうだな」

食堂で食いっぱぐれ、仕方なく院内のコンビニでおにぎりを購入していたら俊介に発見された。

「ああ、最近ちょっとな。腹減った」

「杏子ちゃんの弁当にしたらいいのに」

「あー、この後理事長にも呼ばれてて、ちょっと行ってる暇ない」

「それはそれは、ご愁傷様」

「俊介はよく買いに行ってるのか、杏子のとこ」

「食堂で食いっぱぐれたときだけ。今日は14時頃に駆け込んだら、杏子ちゃんも昼飯食っててさ、もぐもぐしてた」

「あー、あいつもぐもぐしてる姿、小動物みたいだよな。めっちゃ美味そうに食べる」

「確かに、ニコニコしながら食べてた」

「なんかよくわからんが杏子が食べてる姿って幸せそうだよな」

前に杏子がつくねを頬張っていたときのことを思い出す。箸で上手にコロコロ転がして、ぱくりと口に入れる。ニコニコしながら美味しいと幸せそうに笑う。あれは見ているだけでこちらまで美味しい気持ちになった。

「さすが一真、杏子ちゃんのことよく知ってるね」

「それはまあ、……主治医だからな」

主治医だからよく知っているなどと、どの口がと思った。俺は杏子のことを全然知らない。ちょっと人には言いづらいトラウマを知っているだけで、それ以外は何も知らないのだ。

「一真、顔が怖い」

「……今から理事長のとこ行かないといけないからな」

「ああ、じゃあ、まあ、頑張って」

俊介と別れたあとは頭の中が杏子のことでいっぱいになり、いろいろと考えすぎて時間が無くなった。結局コンビニで買ったおにぎりも食べ損ねてしまった。
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