エリート外科医の蕩ける治療
体全体がピンクに染まる杏子は、少しのぼせてしまったらしい。髪と体を丁寧に拭いてから、ベッドまで運んだ。途中、重くないかと何度も聞かれる。

「重くないよ、杏子くらい。意識のない患者より重いものはないな」

「比較対象がそれ? お医者さんみたい」

「何度も言う様だけど、医者なので」

「そっか。私、患者だ」

杏子の口から漏れ出た“患者”という言葉が聞きたくなくて、すぐにキスで言葉を奪う。杏子にとっては俺は主治医。それ以外の何物でもないことを突きつけられるようで腹が立つ。

こんな状況でもどうしたら濡れるか必死に考えているらしい。これは真面目だけで言い表せられるものじゃない気がする。杏子の頭の中から、“医者”と“患者”を取り除きたい。だって杏子はすでに濡れているのだから。

指を這わして秘部に触れると、くちゅりと音がした。

「先生、やっぱり私、治ったんですよね?」

「そうだな」

「嬉しい」

顔を綻ばせて喜ぶけれど、それで満足してもらっては困る。確かに杏子の希望は“濡れること”だけど、それで終わっては寂しいじゃないか。

「濡れただけじゃダメだろ。気持ちよくならないと」

「えっ、あっ、ひゃんっ」

杏子が身を捩らせながら、「せ、先生ぇ」と甘い声で俺を呼び、俺を求めるように手を伸ばす。「先生、イッちゃう」と言いながら俺にしがみついてきた杏子は極上に可愛かった。

求められることの喜びに胸が震え、俺は欲望のまま杏子を抱きつくした。この時ばかりは罪悪感なんてどこかに吹き飛んだ。

誰かと肌を重ねることを避けてきた俺が、こんなふうに誰かを愛することができる日が来るなんて、思ってもみなかった。

快楽に溺れたのではない。
間違いなくこれは、愛だろう?

だけどその気持ちを杏子に伝えることはできなかった。杏子とはこれで終わりだ。杏子を騙したことは墓場まで持っていこう。
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