エリート外科医の蕩ける治療
思わぬ清島さんの情報を得てしまった。清島さんは腕が良くて前の病院から引き抜かれてこっちの病院に来たんだ。腕がいいから、私のことも治してくれたんだ。てことは私、病院外で清島さんに診てもらえたことはめちゃくちゃ運がいいのでは?

それなのに診察代を一円も払っていない。なんならあの日のラブホ代も清島さんが払ってくれた。

『特別診療だからな、プライスレスだ』

そうだった。プライスレスだった。私はどうやってこの恩を清島さんに返していけばいいんだろう? しかも秘密にしておかないと呪いも発動するし、ああ、いやこれはさすがに冗談だろうけど……。冗談だよね? ま、まあ、誰にも言う気はないけれども……。

そしてあれ以来、清島さんに会っていない。お弁当を買いに来てくれないことをちょっぴり寂しく思ったりもして。でも病院にも食堂はあるわけだし、他の先生や看護師さんたちも毎日来てくれるわけでもないから、当たり前といえばそうなんだけど。

来てくれたらいいなー。会いたいなー。って思う自分もいたりして、ソワソワしてしまって困る。

「こんにちは、杏子さん」

「桜子さん、いらっしゃいませー」

今日は一人でご来店の看護師の桜子さん。私より年下だけど、神木坂総合病院の理事長のご令嬢らしく、まわりが「さん」付けするので私もそう呼んでいる。上品でお嬢様な雰囲気漂うけれど本人はそれがあまり好きではないらしく、イメージぶっ壊しのためよく合コンに参加している不純な動機を持つ。

「あの、杏子さん。ちょっとお聞きしたいことがあります」

「はい、なんなりと」

「杏子さんは清島先生のことどう思いますか?」

「はい?」

ビクッと肩が揺れる。だってさっきまで清島さんのこと考えていたんだもん。まさか、桜子さんに心読まれてないよね?

「ど、どう、とは?」

「実は私、清島先生と結婚を勧められているんです」

「えっ! 結婚?!」

「しー! 杏子さん、声が大きいです」

「あ、ご、ごめん」

ドックンと心臓が嫌な音を立て始める。
結婚って、結婚って、なに?!
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