エリート外科医の蕩ける治療
「清島先生ってとても優秀な外科医なんです。それで父が気に入ったらしく、ゆくゆくは病院を継いでほしいって」

「あー、桜子さんのお父さんって理事長先生だっけ」

「そうなんです。でも私、まだ清島先生のこと何も知らないのに結婚だなんてって思って。杏子さん、合コンのとき清島先生とお話してたでしょう? どんな方でした?」

「……優しい感じではあったと思う」

なんて答えたらいいかわからない。わからないけれど答えないわけにもいかなくて、必死に言葉を紡ぎ出す。

突然ハンマーで頭を殴られた気分になり、一気に気持ちが沈んでいった。

「だから今日は日替わり弁当を二つください」

「二つ?」

「彼の人となりを知りたいので、お弁当を差し入れようかと思って」

「……桜子さんは偉いね」

「自分の人生ですから」

桜子さんはふふっと可憐に微笑んだ。その姿がとても大人びて見えて、私の心臓はまたキリキリと痛みだす。

だけどわかってしまった。清島さんが連絡をくれない理由。お弁当を買いに来てくれない理由。桜子さんとの結婚の話があるからってことだよね。

そういえばうちの料亭で出会った時、理事長に呼ばれたって言っていた。何かをやらかしたわけじゃないって言っていたけれど、あの時すでに桜子さんとの結婚の話が出てたのかな。だとしたら、清島さんに診察させてしまって申し訳なかったなと思う。

ズキンと胸が痛んだ。
どうしてだろう、すごく苦しい。

『お前さあ、不感症なんじゃね? 全然濡れないし反応薄いし、つまんねー』

久し振りに思い出される呆れた声。清島さんに診察してもらってからは、少しも思い出さなかったのに。いつだって、清島さんに抱かれたことを思い出して体が疼くのに……。

だけど前回の診察でも確実に濡れたんだ。治ったんですよねって聞いたら、そうだなって言ってたし。ということは、私の不感症は治った。きっと新しい恋をしても大丈夫だ。あの感覚を思い出しながらしたら、きっとできる。

だから私も桜子さんのように、一歩踏み出してみるべきなのかもしれない。
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