エリート外科医の蕩ける治療
そんなことを思いつつも、結局この目つきの悪い猫のボールペンを買った。明日から仕事で使おう。

「そろそろ行こうか」

「そうですね」

佐々木先生について行くと、「ここ段差だから気をつけて」とか「大丈夫?」とか、すごく気遣ってくれる。この優しさが患者さんから人気の理由の一つかもしれないなと考えつつ、やっぱりぬるま湯に浸かっているみたいな緩やかな心地に安心感を覚えた。

映画はタイトルそのままに、一匹のヒロインニャンコをたくさんのニャンコで奪い合うというもの。でもドロドロしたものじゃなくて、ニャンコ同士の友情とか青春とか、笑いと涙ありの内容だった。

「すっごく面白かったです。ニャンコ、侮ってました」

映画の後、近くのイタリアンレストランでランチをしながら、私は興奮気味に映画の感想を伝えていた。

「だろ? ハチワレがニャン吉を追いかけていくとこなんて、もう泣きそうだった」

「あっ、わかります。その後のケンカして本音でぶつかって抱き合うところとか、胸熱でしたね」

「いやー、ニャンコのことを語れる人が周りにいなくてさ、杏子ちゃんにわかってもらえて嬉しいよ」

「私も、新しい世界発見って感じで楽しいです」

優しい佐々木先生と映画観てランチして、今日はとっても充実している。パスタもデザートのプリンも美味しいし、幸せだなあ。

もぐもぐとプリンを堪能する。なめらかさがするりと喉を通っていって、すぐになくなってしまうのがもったいないくらい。

「ぷっ」

「ん?」

「いや、ごめん。なんかすごく幸せそうにプリン食べてるから」

「だってめちゃくちゃ美味しいですよ」

「前に一真が言ってたんだよね。杏子ちゃんがもぐもぐしてる姿が小動物みたいだって」

「えっ! 清島先生が?」

「ほんとそのとおりだなーって。あ、これ褒めてるからね」

佐々木先生はくすくすと笑う。まさか清島さんに小動物みたいと思われていたなんて。……小動物って何? ハムスターとかうさぎとか? そんな私もぐもぐしてたかな?
< 58 / 113 >

この作品をシェア

pagetop