エリート外科医の蕩ける治療
「ねえ」

「はい」

「一真と付き合ってるの?」

「えっ? げほっ!」

あんなになめらかだったプリンなのに、なぜか喉に絡まる。一真と付き合うって、それって私が清島さんと付き合ってるってこと?!

「な、ななななな、なにをっ。なんでっ?」

「だって、杏子ちゃんの食べる姿知ってるってことは一緒に食事したりするのかなって。それに、いつも気にかけてるし」

「そ、それは主治医だからなんじゃ……」

「そう? じゃあ付き合ってないの?」

付き合ってるもなにも、清島さんは桜子さんと結婚するかもしれないのに。私の主治医だって、もう完治してしまったから関係なくなる。……そう、清島さんとの繋がりはもう何もない。だからこそ今日佐々木先生と映画を見に来たんだから。

「付き合ってないです」

そう事実を告げただけなのに、ひどく胸が痛んだ。なんで、どうして胸がズキッとしたんだろう。だって私と清島さんは先生と患者以外の何物でもないじゃないか。清島さんだって、そう思ってるに違いない。

「何でそんな泣きそうな顔するの」

「し、してませんし!」

「そう? じゃあさ、俺と付き合わない?」

「えっ? ええっ?」

「答えは急がないからさ、考えておいて」

ドキンドキンと鼓動が速くなる。これは佐々木先生に対して? それとも清島さんに対して?

もう、プリンの味がわからなくなってしまった。半分まではめちゃくちゃ美味しかったのに。

目の前の佐々木先生をチラッと見る。目が合うと、佐々木先生はニコッと爽やかに微笑んだ。眩しい。まるで後光が差しているみたいにキラキラとしている。

「このプリン美味しいね」

「……そうですね」

動揺を悟られないように、私もニコッと微笑む。
上手く笑えているか、不安だ。

もうっ、それもこれも佐々木先生のせいなんだから。付き合わない?とか言うから。でも待って、それってもしかして、佐々木先生は私のことが好きってこと? う、嘘でしょ?

そんなことを言ったくせに佐々木先生はいつも通り爽やかに笑って穏やかで、私の心の中だけが嵐が吹き荒れているみたいにざわざわしていた。
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