エリート外科医の蕩ける治療
9.その感情は好きってこと side杏子
目つきの悪い猫、ニャン吉。そのボールペンを目の前にかざす。めっちゃ目つき悪い。それに負けず劣らず、キッと私を睨む清島さん。

「何してるんだ」

「ニャン吉と似てるなぁって思って」

「はあ?」

あー、めっちゃ不機嫌だ。
なんで? どうして? 私が何をしたんだ?

珍しくお弁当を買いに来たのかと思いきや、清島さんは不機嫌極まりなく「聞きたいことがあるんだが」と睨みをきかせてくるのだ。

「お弁当も買ってくれます?」

交換条件のように聞いてみると、ぶっきらぼうに「唐揚げ弁当」とオーダーされた。唐揚げキャンペーンはもう終わったというのに、清島さんは唐揚げ好きなのかな、なんて考えつつお弁当の準備をする。

「俊介とデートしたらしいな」

「デート? 違う違う、映画を観に行っただけですよ」

「ドクターストップだって言ったよな」

「ドクターストップって、別に佐々木先生とは映画見ただけで……」

「他には?」

「えっと、ランチして映画の感想言い合って……」

「それから?」

矢継ぎ早に聞いてくるから思わずポロッと言いそうになったけど、踏み止まった。佐々木先生に付き合わないかと言われたことは、なんとなく伝えてはいけない気がする。大惨事になりそうだもん。

「べ、別に先生には関係ないでしょ」

「関係ある。俺は杏子の主治医だからな」

「何言って……」

だってもう完治したんだから、主治医卒業でしょう? 医者と患者の関係はもう終わってしまったじゃないか。それなのに、清島さんは鋭く私を見つめた。その威圧感にゴクリと息を飲む。

「わかるか、お前は俺でしか濡れない」

「えっ?」

突然突きつけられた現実。まるでガンの宣告を受けているみたいな。いや、受けたことないけど。

「うそ。どうしよう」

「どうしようって、俺以外の誰かとするつもりだったのか?」

「そういうわけじゃないけど。でも先生にはもう頼れないでしょう? これ以上は浮気になるからダメだって。私だってちゃんとわきまえてるんですからね!」

「は? それってどういう――」

思いっきり顔を顰めた清島さんの胸ポケットから携帯電話がけたたましく鳴る。清島さんが私を見るので、どうぞお構いなくと手を振ると、清島さんは渋々電話を取った。

「悪い、急患。この話はまた後で」

「はい……」

「夜、飯行こう」

「えっ?!」

聞き返すも、清島さんは慌てて病院へ戻っていった。
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