エリート外科医の蕩ける治療
「泣かせるつもりはなくて……ごめん」

「え? あっ、大丈夫ですよ。こんなの慣れっこですから。こちらこそ泣いちゃってすみませんでした。それに、あんなふうに言ってもらえて嬉しかったというか」

――そういう言葉、人を傷つけるってわかんない?

清島さんの言葉がよみがえる。そんなことを言ってくれる人が世の中にいることに驚いた。本当は傷ついている。だけどそれを認めてしまうと余計惨めで、いつも無理やり思考をそらしていたのだ。

「合コンよく参加するの?」

「そんなには。まあ、誘われたら行くくらいで。私がいると彼女たちは嬉しいみたいだし」

「それって利用されてるってわかってる?」

「もちろん、わかってますよ」

あははと笑うと清島さんはまた眉を寄せた。

「わかっててなんで行くの? そうやって、自分を犠牲にするのやめなよ」

「犠牲になんて……そ、そう、おいしいご飯食べたいから行くんですよ。あっ! つくね食べ損ねた。あれすごく美味しそうだったのに」

焦って早口になる。清島さんに変に思われないように笑ってごまかしたつもりだけど、清島さんは不機嫌そうな顔をしながら深く息を吐く。

「……悪かったよ」

「あ、いえいえ。また食べればいいだけの話ですし」

「いや、そうじゃなくて……。はあ。じゃあ何か食べてから帰る?」

「お腹すいてるし食べたいのは山々ですけど、さっき一万円払っちゃってお財布すっからかんです」

本当はそんなに払う必要なかったと思うけど。でも払わずに出てくるのも躊躇われてテーブルに置いてきちゃったんだよね。あー、損した気分。さよなら私の諭吉。あ、栄一だったかな。どっちでもいいや。

「ははっ、なんだそれ。じゃあ奢るよ。お詫びに。何食べたい?」

「えっ! いいんですか? じゃあつくね! つくねが食べられるところがいいです」

さっき食べ損ねたからそう言ったのに。

「君、面白いね」

と、なぜだか笑われた。
まあ、いいか。
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