エリート外科医の蕩ける治療
先生、夜飯行こうって、言いましたか?

不機嫌なのにまさか夜ご飯のお誘いをされるとは思わず、私の頭の中はハテナがいっぱい飛ぶ。一体清島さんは何を考えているのだろうか。

いやいや、それよりも。

『お前は俺でしか濡れない』

う、嘘でしょ?
完治だって言ってたじゃん。
清島さんの嘘つきぃぃぃぃぃ!

あまりのショックにヘナヘナと力が抜けてその場に座り込んだ。清島さん限定で濡れる私の体はもはやレア個体なのではなかろうか。ゲームで言ったらそう、SSR(えすえすあーる)。SSRって何の略だっけ? すごいスーパーレア? 塩、砂糖、ラー油?

「何してるの、杏子ちゃん」

気づけば病院帰りの親子連れがお弁当を買いに来てくれていて、カウンターの向こうで頭を抱えていた私を不思議そうに覗き込んでいた。

「SSRって何の略か考えています」

「は? 何の話?」

「あー、俺知ってる。ゲームじゃん。えっと、何の略だっけ? すごいスーパーレア?」

「健ちゃん、私と同じレベルね」

「(S)寒い日は(S)外で(R)ラーメンとか?」

「なるほど、それも有りですね」

「(S)佐々木(S)先生(R)ラブ」

「Lじゃないのにラブ」

「今日もイケメンだったわよ」

「ママは佐々木先生に会うときはいつもおしゃれしてる」

「余計なことは言いません」

ゴチッと健ちゃんはゲンコツを食らった。
日替わり弁当とお子様ランチのオーダーをもらって、いそいそとお弁当の準備をする。

「そういえばさっき救急車来て、先生らしき人が走ってたけど、ほんとお医者さんって大変よねぇ。いつご飯食べてるのかしら?」

「先生たち、結構遅い時間に買いに来たりしますよ」

「そうなの。やっぱり大変なのねぇ」

「ママー、お腹すいた。これ誰のお弁当?」

健ちゃんがカウンターに置きっぱなしのお弁当を指差す。清島さんがオーダーした唐揚げ弁当だ。結局呼び出しがかかってお弁当も持たずに帰っちゃったけど、大丈夫なのだろうか。
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