エリート外科医の蕩ける治療
あっという間に食べ終わった佐々木先生は、お弁当のゴミを綺麗に袋に戻す。捨てるだけだというのに、佐々木先生は丁寧だ。なんてぼんやり見ていると――。

「なんかあった?」

「え?」

「一真と」

ドッキリするようなことを言う。何かを見透かされているような気さえしてきて、「別に何もないです」と思わずふいと目をそらした。

「桜子ちゃん、関係してる?」

「……!」

「なんでわかるのかって顔してる。わかるよ、杏子ちゃんってわかりやすいもんな」

「それって単純ってことですか?」

「違う違う。素直でまっすぐで初心だってこと」

「……?」

「これ、褒めてるから。でさ、杏子ちゃんは一真のこと好きなんだろ?」

ギクギクッと肩が揺れる。ニコニコと真っすぐな瞳で見つめられ、直視できなくて目が泳いだ。

好き……私が、清島さんのことを……好き……?

ずっと心にモヤモヤと引っかかるもの。それが何なのか分からずにいた。もしかしてそれって、もしかするとなんだけど……。

「好き……なのかな?」

疑問形の私に、佐々木先生は肩をすくめた。

「好きじゃないの? じゃあ、あの返事、聞かせてよ」

「返事?」

「うん。俺、杏子ちゃんに告白したじゃん」

「あっ!」

「もう~忘れてるってどうなの?」

「ごめんなさい」

そうだった。佐々木先生と映画に行った日、付き合わないかって言われていたんだった。清島さんのことばかり考えていて、佐々木先生のことはすっかり頭から抜け落ちていた。

申し訳なく佐々木先生を見ると、「困った子だなあ」って、柔らかく笑う。まるで子どもをあやすみたいに優しくて、佐々木先生のあたたかさと心の寛大さに甘えてしまいそう。

佐々木先生のことは大好きだけど、でもやっぱりなんか違うというか、恋人じゃなくてお兄さんみたいな、そんな存在だ。一緒にいて心地良いんだけど、ただそれだけで、恋するドキドキはない。

……恋するドキドキがどんなのかは知らないけど。

うん、でもやっぱり違うと思う。
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