エリート外科医の蕩ける治療
「俊介とデートしたらしいな」

「デート? 違う違う、映画を観に行っただけですよ」

「ドクターストップだって言ったよな」

「ドクターストップって、別に佐々木先生とは映画見ただけで……」

「他には?」

「えっと、ランチして映画の感想言い合って……」

「それから?」

「べ、別に先生には関係ないでしょ」

「関係ある。俺は杏子の主治医だからな」

医者と患者の関係はもう終わりだと思っていたはずなのに、俺の意識の向こう側で自然と主治医だと告げていた。主治医だと宣言することで、杏子をまだ自分のものにできる気がしていたのだ。

「何言って……」

「わかるか、お前は俺でしか濡れない」

「えっ? うそ。どうしよう」

サーっと青ざめてめちゃくちゃ慌てる杏子。それがまた俺をイライラさせた。

「どうしようって、俺以外の誰かとするつもりだったのか?」

「そういうわけじゃないけど。でも先生にはもう頼れないでしょう? これ以上は浮気になるからダメだって。私だってちゃんとわきまえてるんですからね!」

「は? それってどういう――」」

こんなタイミングで、けたたましく鳴る緊急呼び出しの電話。話の腰を折られ更にイライラがつのるが、無視するわけにもいかない。杏子と視線が合えば、早く電話を取れとでも言っているのか、どうぞと手で合図される。渋々電話を取れば、まごうことなき呼び出しで――。

「悪い、急患。この話はまた後で」

「はい……」

「夜、飯行こう」

それだけ告げると、俺は病院へ逆戻りした。

この話をうやむやにできるわけがない。浮気になるってどういう意味だ。

やっぱり杏子は俊介と何かあったのか?
俊介のことを好きになったとでもいうのか?

杏子に好きだと伝えることはしない。杏子との関係は終わりだ。そう自分に言い聞かせたはずなのに、その決意はいとも簡単に揺らいだ。

俺は杏子のことが好きで、自分のものにしたいと思っている。
それを改めて自覚してしまって、どうしようもない感情に襲われた。
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