エリート外科医の蕩ける治療
11.話したいことがあって side杏子
夜になってお店も閉めた。清島さんに「夜飯行こう」と言われたけれど、時間も場所も決めていない。清島さんは緊急オペだって言っていたから、きっと忙しいのだろう。

店の前を囲うように置かれているブロックに腰を下ろす。スマホを取り出してみたけれど、清島さんからの連絡はない。やっぱり仕事が忙しいのかな。そんなときにこちらから連絡するのも憚られる。

「……いつまで待とうかな」

夕闇からいつの間にか夜に変わり、ぽつぽつと星が見える。夏の大三角形でも探してみようか。

もし今日清島さんに会えたなら、ちゃんと好きだって伝えよう。清島さんは私のことを患者としか見ていないかもしれないけれど、私はもうそんな気持ちではいられない。

佐々木先生と映画に行って、実感したんだ。清島さんだったらどうするかなとか、清島さんだったら何を食べるかなとか、そんなことばっかり考えてた。いつのまにか清島さんは、私の頭の中をいっぱいにする存在になっていた。

店を閉めてからどれくらい時間が経っただろう。時間を確認しようかと再度スマホを手に取ったとき、画面に表示される「清島一真」という文字。ドキッと胸が高鳴ると同時に指をフリックしていた。

「あ、先生。お仕事終わった?」

『今どこ?』

「店にいますよ」

『すぐ行く』

それだけ言うと、電話はすぐに切れてしまった。
すぐ行くと言った通り、清島さんが走って来るのが見える。押しボタン式の信号を押しておくと、ちょうどいいタイミングで青に変わった。すっごく息が切れている。

「なんでお前、外にいるんだ」

「だってお店はもう閉店しちゃったし、行くとこもないし。それに星が綺麗だったから」

「だからって、外は暑いだろ」

「清島さんこそ、走ってこなくてもよかったのに。暑いんだから」

お互いに、しっとり汗をかいている。
顔を見合わせると、ふっと笑みがこぼれた。
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