エリート外科医の蕩ける治療
「とりあえず、なんか食べに行くか」

「行く。お腹ペコペコ」

「俺は一日何も食べてないから死にそう」

「じゃあ先生もペコペコペコリンですね」

「なんだそれ」

「なんだろ?」

あははと笑う。清島さんの隣で笑えることがとても嬉しい。

「何食べたい?」

「何でもいいですよ。先生は?」

「俺も何でもいいけど。酒は勘弁。空きっ腹にはキツイ」

「じゃあ、ラーメンなんてどうですか? やっぱり暑い日は塩分でしょ」

「そういうのでいいのか?」

「先生さえよければ」

「俺は杏子といられるならどこでも構わないよ」

突然ドキッとすることを言うものだから、言葉に詰まる。そんなことを言われたら、ちょっと期待してしまうじゃないか。

清島さんと味噌ラーメン店に入った。ここは私がお気に入りのお店。味噌の種類がたくさんあって、そのどれもが美味しい。気分でオーダーを変えられるから、清島さんにも是非食べてもらいたいと思ったのだけど。

よく考えたら清島さんはワイシャツにジャケットという、スマートカジュアルな服装をしている。ネクタイはしていないものの、ラーメン店よりはおしゃれなレストラン向きのスタイル。しかも夏なのに長袖で暑そう。急に不安になる。

「ねえ、先生。今日って桜子さんとディナーじゃなかったんですか?」

「そんなの行くわけないだろう?」

「いいの?」

「いいに決まってる」

そうきっぱりと断言されて、嬉しいやら申し訳ないやら、ちょっと複雑な気持ちになった。理事長先生は清島さんと桜子さんを結婚させたいと思っている。桜子さんもまんざらじゃないみたいだし、それなのに私が清島さんといていいのだろうか。

「杏子、一つ言っておくけど、俺は御堂桜子とは結婚しないよ」

「そうなの?」

「結婚するなら好きな人って決めてる」

「……そっか」

好きな人……好きな人……清島さんの好きな人。それが私だったらどんなに嬉しいだろう。私は清島さんが好き。この気持ちを伝えたい。……でも、緊張するからとりあえずラーメンを食べてからにしよう。
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