エリート外科医の蕩ける治療
目の前にどんと置かれる味噌ラーメン。熱々の湯気が立ち上る。私のはちょっと甘めの九州味噌。清島さんが選んだのは信州味噌。

「味噌っていっても味が違うのか」

「そうなんですよ。ちょっと飲んでみますか?」

どんぶりをずずいと差し出せば、レンゲですくってごくりと飲む。喉ぼとけの動きがかっこいい。……って、何を見ているんだ私は。

「うまっ。甘めもいいな」

「でしょ」

「杏子も飲む?」

清島さんが勧めてくれるので、私もレンゲを差し入れる。信州味噌は濃厚だ。

「美味しい~。次来るときは信州味噌にしよーっと」

「じゃあ俺は北海道味噌かな」

「別々で頼んだらまた交換できますね」

「そうだな。また一緒に来よう」

無意識に「交換」なんて言っちゃったけど、清島さんが「また一緒に来よう」って言ってくれたから、嬉しくて頬が緩む。勝手ににやけてしまう顔を隠すために、一生懸命ラーメンをすすった。途中、またスープを交換しつつ、美味しくて楽しい時間があっという間に過ぎていく。

お腹も満たされ、外に出る。夏の暑さは幾分か緩み、暑いながらにも少し涼しい風が緩やかに吹きぬけていく。空にはパラパラと星が見え、真ん丸の月がぽっかり浮いていた。生ぬるい空気が、私の背中を押してくれているみたい。

「先生」

「うん?」

振り向いてくれた清島さんは、月明かりに照らされてとても綺麗。ああ、好きだなって、心の底から思った。ドクンドクンと心臓が高鳴る。胸のあたりをぎゅっと握った。

「私ね、先生に話したいことがあって」

「俺も、杏子に話したいことがある」

「え?」

少し見上げた先、清島さんと視線が絡まる。その優しい眼差しから目が離せなくなって――。

「俺は杏子のことが好きだ」

「え……」

ひゅっと息を飲む。そのまま息が止まったかと思った。
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