エリート外科医の蕩ける治療
清島さんの手が私の髪に触れる。そっと一掬いすると、髪の先にキスを落とす。

「もうずっと前から、杏子のことが好きなんだ」

その言葉の意味を理解した途端、目の前がぼやけた。清島さんの顔が歪む。嬉しさがじわじわと広がって、胸がいっぱいになっていった。

「なっ、なんで。私が先に言いたかったのに。先生のばか」

ぽろっと零れ落ちた涙を、清島さんは指で拭ってくれる。優しい手つきにますます胸が高鳴る。

好きだって。杏子のことが好きだって。
夢じゃないよね? 夢なら覚めないでよ。

「じゃあ杏子も言って」

「うっ」

「言いたかったんだろう?」

ちょっぴり意地悪に笑う清島さんも愛おしく感じてしまって困る。切れ長の目が今日はとんでもなく優しくて甘い。

「私も、先生のことが好き」

清島さんはふっと目を細めて柔らかく微笑む。腕を引っ張られ少し前のめりになったところを、ふわりと抱きしめられ、嬉しいのと同時に少しばかり焦った。今日も揚げ物を揚げまくったし、絶対ニオイが付いてると思うから。

「せ、先生。私仕事終わりだから。まだお風呂入ってないから」

「俺、杏子の匂い好き」

耳元で囁く声は少し掠れていて、低くて甘い声が鼓膜を震わす。

「このまま食べたいくらい」

そんな魅惑的な言葉を紡ぎながら、耳たぶをカプッと甘噛みされる。体の奥がじんと震えた。

「……特別診療してくれるんですか?」

「ああ、もちろん」

清島さんの手が頬を伝い、唇をなぞっていく。
頬が熱い。この先を期待して胸が疼いた。

「先生、私ってSSRだと思う」

「また突然何を言い出した?」

「先生でしか濡れない特別個体」

「じゃあ俺はそれを引き当てたんだから相当運が良いってことだな」

くっと笑って、清島さんは私の手を取り歩き出した。今からどこに行くのだろう。清島さんとならどこでもいい。ずっと一緒にいられるなら、どこだってついていく。
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