エリート外科医の蕩ける治療
「杏子、引かないで聞いてほしいんだけど、俺今すごく杏子のことを抱きたいと思ってる。いい?」

「い……いい、です」

ドッキンと心臓が揺れた。清島さんを先生としてではなく、好きな人として体を重ねることって、どんな気持ちなんだろう。私、ちゃんと濡れるよね?

「緊張してる?」

「うん、少し」

「俺も」

「先生も?」

「……うん」

ぎゅっと握られた手が熱い。ドキドキと鼓動が速くなる。どうしてだろう、清島さんとそういうことをするのは初めてじゃないのに。心臓が口から飛び出してきそうで困る。いつもだってドキドキしていたけど、今日はその比じゃない。

私たちはしばらく無言で歩いていた。繋いだ手だけは固くしっかりと。お互いの緊張が手のひらから伝わっていくようで、体がこわばる。

「……先生、何かしゃべって」

「……今日俊介が、杏子にフラれたって言ってたけど、告白されたのか?」

「そういう話は求めてなかったです」

「でも俺は気になってる」

「うーん、告白されたけど、本気じゃなかったと思う。私が清島さんのこと好きだって気づいていたみたいだし」

「そうか、ならいい」

「いいの?」

「いいよ。それで疑問が晴れたから」

「私も聞いていいですか?」

「いいよ」

「……桜子さんに告白された?」

「されてないよ。彼女は理事長に言われて俺を知ろうと努力していたみたいだけど、あいにく俺は杏子にしか興味がない」

くっと引き寄せられたつないだ手。その手の甲に、ちゅっとキスが落とされる。惜しげもなくそんなことをするものだから、ますます体温が上がった。

杏子にしか興味がないだなんて、嬉し恥ずかしすぎる。

「先生、こしあん派? 粒あん派?」

「俺は宮越杏子派」

「誰が上手いこと言えと」

「最近俺も、杏子化してきてる」

「ちょっと意味わかんないです」

「俺も意味わからない」

ふふっと笑いあう。顔を見合わせて笑いあえるのって幸せだ。
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