エリート外科医の蕩ける治療
「ん?」

急にこちらを見るので、私は慌てる。

「あ、いえ。あの、清島さんの言葉、胸に響きました」

「え?」

「えっと……、そういう言葉、人を傷つけるってわからない? ってやつ」

「ああ、あれか」

本当に、そんなことを言ってくれる人が世の中にいるんだって、目の前に少し光が差した気分。一瞬心を読まれたのかとさえ思った。それくらい、私にとっては衝撃だった。

「もしかして精神科医ですか?」

「いや、外科だけど。てか、さっきも言ったけど、自分を犠牲にするなよ。他人の言葉で傷つけられるのなんてバカバカしい」

清島さんは吐き捨てる。まるで自分のことのように怒ってくれるのが嬉しいし、ちょっぴりくすぐったい。

「それはそうなんですけどね。でも忘れられない言葉ってあるじゃないですか。心に張り付いちゃってどうしようもないやつ」

「……それ、トラウマっていうんだけど、わかってる?」

「ああ、これトラウマだったんだ……」

なーんてね。わかってはいたけど。お医者さんにそうだって言われたら決定的になるというかなんというか。とりあえず笑ってごまかしておくかと思ったんだけど。目の前にずずいと料理が並べられる。

「ごめん。食べて忘れよう。つくね、食べたかったんだろ。いっぱい食べろよ」

「ふふっ、嬉しいです」

清島さんは見かけによらず優しいみたいだ。第一印象はちょっと冷たそうだったんだけど。時間が経つにつれて、彼の些細な優しさに触れてほっこりする。

自分を押し殺して我慢して、彼女たちに花を持たせてあげる偽善者な私はここにはいない。自由な感情のまま、思う存分に食事を楽しめそうだ。

さっきの店で食べ損ねたつくねを大口で頬張る。見た目も味も違うものだろうけど、軟骨が入ってコリコリしていて美味しい。大満足だ。
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