エリート外科医の蕩ける治療
「な、なななな、なぜ?」

「だって、なんかツヤツヤしてるっていうか」

「……それは揚げ油じゃない?」

今日もたくさん揚げ物したし、今も唐揚げ食べてるし。油物、ちょっと控えたほうがいいかしら?

「そういうことじゃないんですよ、杏子さん」

心和ちゃんが顔を赤らめながら、レモンチューハイのジョッキをダンっとテーブルに置く。キッと睨んでくるのにその瞳にはじわりと涙が浮かび、意味がわからなくてとりあえずおしぼりを手渡した。

「……何かあった?」

「杏子さん……、佐々木先生と付き合ってますよね?」

「へ?」

佐々木先生? なぜ? 確かに映画には行ったけど、お付き合いなんてしていない。むしろ佐々木先生は私のお兄さんみたいな世話焼きさん。ただそれだけだ。

「ないない。それは断じてない」

「だって、おそろいのボールペン持ってるじゃないですか!」

指差す先は、私のカバン。ニャン吉がぴょこっと顔を出している。映画館で購入して、仕事中はエプロンに差している。目を引くのか、子供たちにも「これ知ってるー」とよく声をかけられ仲良くなれる神アイテム。

「いや、これは――」

「えっ、杏子さん、佐々木先生と?」

「ち、違う違う!」

「じゃあなんで佐々木先生とお揃いなんですか!」

心和ちゃんはいよいよ涙ぐみ、ぐすっと鼻をすすった。それはもう、何というか、嫉妬のような恨み節のようなそんな雰囲気だ。

「心和ちゃん、もしかして佐々木先生のこと好きなの?」

核心を突いてしまったのか、心和ちゃんはアルコールで赤らんだ頬をますます赤くして「はわわ〜」と可愛い悲鳴を上げた。何それ、可愛い。私も言いたい、「はわわ〜」って。

「絶対、におわせだって思いました」

「まさか! だって見て、この目つきの悪いニャン吉。佐々木先生じゃなくて清島先生みたいでしょ。だから――」

「杏子さんは清島先生推しですか?」

桜子さんがしっとりカクテルを飲みながら、ニコリと微笑む。いつの間にカクテルなんて注文したんだろう。じゃなくて、その静かな微笑みが怖い。
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