エリート外科医の蕩ける治療
「いや、推しっていうか……」

「付き合ってますよね?」

「えっ! 杏子さん、そうなんですか?」

「じーーーー」

視線が……視線が痛い。嘘を付くのも何か違うし、ここは大人しく「うん」と頷いた。妙にドキドキしてしまう。一真さんと付き合っていることは隠していることではないけれど、あえて誰かに言おうなんて思っていなかったし。でも――。

「桜子さん、ごめんなさい。隠してるつもりはなくて」

「えっ、桜子さんも清島先生推しなんですか?」

千里ちゃんと心和ちゃんが驚きながら桜子さんを見る。桜子さんはカクテルを一口上品に飲むと、ふっとゆっくりと瞬きをする。その仕草がとんでもなく色っぽくて、全員がごくっと息を飲んだ。

「いいえ、父から見合いをしろとうるさく言われていただけなので。いいんです、私とはご縁がなかったの。どんなに誘っても冷たくて相手にしてもらえなかったんですよ」

「うっ、なんか……ごめん」

「大丈夫です。元々好みではないし。父がうるさいから仕方なくアピールしていただけだし。でもね、病気持ちだから付き合えないって言われたんです」

「あ、なんかそれ、他の子からも聞いたことある。そうやってふられたって」

「病気?」

「杏子さんが聞いてないなら大丈夫ですよ。だって杏子さんとお付き合いしてるなら、他の女を断るために病気を口実にしていただけだでしょう?」

「常套句ってやつですね」

「なるほど、モテる男は罪ですね」

うんうん、と頷く。確かに一真さんはイケメンだからモテるタイプではあると思う。でも、私の知らないところで他の女性に告白されていたなんて知らなかった。モテるのは外科に通院している年配のおば様たちばかりだと思っていたのに。今度聞いてみよう。

桜子さんはコテッと首を傾げながら、心和ちゃんを見つめる。そしてふふっと微笑んだ。

「そうね、次は佐々木先生を狙おうかしら」

「ガーン! 桜子さん、それって私への当てつけですか? 桜子さんにかなうわけないじゃないですか!」

心和ちゃんが「ひーん」と泣き真似をする。確かに桜子さんはとんでもなく色っぽくて、女性である私でもドキッとする。そんな桜子さんは合コンに行くといつもモテモテ。それなのに当の本人は全然いい男がいないと不満気で、浮いた話がない。
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