エリート外科医の蕩ける治療
「あ、そうだ。鬼ごっこしながらするっていうのはどうですか? 私、捕まらない自信あります」

「あははっ、何だそれ。捕まらなかったら意味ないじゃないか」

「走り回るから、運動にはなりますよ」

「こんな家の中なんて、現実的じゃないだろ」

「そうかなぁ? じゃんけんぽんっ」

掛け声で咄嗟に出した手はグー。杏子はパー。

「はい、一真さんの鬼」

「えっ」

「それ逃げろー」

「くそっ、杏子め。絶対捕まえてやる」

よくわからない杏子のノリにつられて、杏子を追いかける。子どもの頃、家の中は走らないことと親に叱られた記憶が薄っすらよみがえる。そんな俺はもう三十歳。まさかこの歳で家の中を走るとか、思わなかった。といっても、走り回れるほどの豪邸ではないのだが。

ソファを間に挟み、ジリジリと間合いを詰める。ピュッと走り出した杏子は「あっ」という小さい悲鳴を上げ、ラグのふちに躓いて転んだ。

「大丈夫か?」

「もー、だから家の中は走っちゃダメだって言ったでしょ」

「いや、それ俺のセリフだからな。はい、杏子のこと捕まえた。大人しく観念しなさい」

「ううっ」

「何、したくないの?」

杏子を後ろから抱きしめつつ、耳を甘噛みする。ぴくんと反応した杏子は一気に頬を染め、そしてこちらを振り向きつつ「したい」と小さく呟く。その唇を包み込むようにぱくりと食べた。

ちゅっと音を立てながら、角度を変える。
何度も、何度も……。
時折漏れ出る声も、甘くてふにゃふにゃで、可愛らしい。もっともっと、杏子のことを乱したくなる。俺に溺れるくらいに、ぐちゃぐちゃに可愛がりたい。そんな欲望さえ湧く。

俺はこんなに杏子に溺れているのに。杏子も俺と同じくらい溺れてほしいと求めてしまうのだ。

「一真さん、もっと」

とろんとした瞳でこちらを見つめる杏子は、甘い蜂蜜のようで、俺は杏子なら無限に食べられそうな気がした。
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