エリート外科医の蕩ける治療
運動も終わって二人でまったりと微睡んでいたはずだったのに、夕方になると杏子は一人いそいそと行動を始めた。物産展で購入したものを一つずつ確認しては、楽しそうにブツブツ一人で呟いている。いや、むしろ商品と会話しているみたいだ。

「というわけで、パーティーでーす」

「これまた、すごいな」

テーブルにずらりと並べられた料理の数々。綺麗に盛り付けられて、本当にパーティーのようだ。たくさんの種類を少量ずつ。食べ過ぎに配慮しているのだろうかと思ったら、もったいないので少しずつ食べるらしい。

「美味しそーう」

「どれが杏子のお勧め?」

「全部と言いたいところだけど、今回はこの角煮です。物産展限定の味噌味」

「頑張って手に入れたもんな」

「一真さん、今日は朝早くから付き合ってくれてありがとう。朝から晩まで一真さんと過ごせて幸せ」

「俺も楽しかったよ。ほら、杏子いっぱい食べろよ。戦利品だろ」

ニコニコ顔の杏子の取り皿に、惣菜を乗せてやる。杏子は「嬉しい」とさらに破顔して、幸せそうに食べ始めた。一口食べるごとに「美味しい」だとか「んー」だとか、忙しない。だけどそれを見ている俺はずっと幸せな感情に包まれていた。幸せそうな杏子を見ているだけで、心があたたかくなる。

「一真さん、食べないの?」

「食べるけど、それより杏子を見てる方が楽しい」

「……あの、聞きたいことがあるんだけど」

ふと杏子が真顔になって箸を置くので、何だろうかと俺も箸を置く。どこか言いづらそうにする杏子は、少しばかり目を泳がせた後、泣きそうな顔になった。

「一真さんって病気持ちなの?」

「え……?」

「どこが悪いの? 無理してない?」

背筋がひやりとする。俺の病気といえば、EDのことだけど、それは誰にも伝えたことはない。だから杏子の言う病気が何を指しているのかがわからない。杏子を騙しているのは事実だけど、それを杏子に伝えるつもりもない。それなのに、何を知っているというんだ。
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