エリート外科医の蕩ける治療
「ふふっ、それにしても杏子さん想像以上に可愛くてびっくりしたわ。よかった、一真にちゃんと彼女ができて」

「ちゃんと?」

「気を悪くしたらごめんなさいね。私、一真と付き合ってたことがあったの」

ドキンと心臓がビクつく。もしかして……とは思っていたけれど、まさか一真さんの元カノだったなんて。ほら、やっぱり火のない所に煙は立たない。そんな人が一真さんと同じところで働いているんだ。

「……そうですか」

「あ、でも心配しないで。今は何とも思ってないし、もう結婚もしてるの」

マリエ先生は「ほら」と首元からチェーンを見せてくれた。そのチェーンにはシンプルなシルバーの指輪が通っている。それなのに、どうにも心がざわついて仕方がない。元カノだから、結婚しているからという理由で一真さんのことをどうこう言うのは、ちょっと違うと思う。

そんな私の心とは裏腹に、マリエ先生は一真さんのことを話し始めた。

「でもね、そのときに一真のこと傷つけちゃったの。一真って繊細でしょ。あのとき私は一真に向き合ってあげられなかったから、そのことをちょっと後悔しててね。だから彼女がいるってきいて、ほっとしたの。よかった、治ったんだーって思って。私が言えた義理じゃないんだけど、一真のことよろしくね」

「はい……」

そんなの、あなたに言われなくてもと喉元まで出かかっていたけれど、結局言葉に出すことはなかった。モヤッとした気持ちが渦巻くと同時に、不安が押し寄せてくる。

マリエ先生は桜子さん顔負けの美人でスタイルも抜群だった。かっこいい一真さんと並んだら、美男美女でお似合いなんだろうなと思う。そんな二人が外科で働いているんだから、そりゃ後藤さんたち患者さんが色めき立つわけだ。

一真さんとマリエ先生はどんなお付き合いをしていたんだろう。私みたいに食べてばかりじゃなくて、おしゃれなレストランやバーでしっとりと過ごしていたのかな。

……やばい、想像したらめちゃくちゃ似合っている。特に脳内の一真さんがカッコよすぎる。鼻血出そう。

一真さん、本当はそういうのがタイプだったりする?
一真さん、彼女が私なんかでいいんですか?
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