心とりかえっこ

「伝えとく」
「え、何を?」
「水野がばあちゃんを好きなこと。きっと喜ぶだろうから」
「佐々木くんって、ほんと優しいよね」
「はぁ?」

おばあちゃんが喜ぶことをしてあげるんだもん。やっぱり佐々木くんは優しい人だ。いくら本人が否定しようが、その事実は変わらない。もう私は、彼の心の奥にある温かい物を知ってしまった。

「そう言ったからには、ちゃんとおばあちゃんに伝えてね」
「なんで喜ぶの。そこは〝恥ずかしいからやめて〟って嫌がってくれないと」
「素直じゃないなぁ、佐々木くんは」

眉間にシワを寄せてムスッとした顔の彼を見ながら、私は久しぶりに心から笑った。

最悪な第一印象だった彼とここまで仲良くなれるなんて信じられなかったけど、あの日に得られなかった何かを今、私は掴みかけている気がした。
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