北原くんは、会長の旦那様(月の蜜)
 俺が彼女に初めて会ったのは、3歳の時だった。
 俺は、家族でおばあちゃんの家に遊びに行って、みんなでご飯を食べたあと、妙に、はしゃいでいた。
 その時だった。
 俺は、派手に転けて、大泣きした。
 「うわぁーん!!」
「はしゃぐからでしょ?」
「1人で立ち上がりなさい。」
 なんて、親や兄弟に言われてた時、1人の女の人が、近付いて来た。
 それが、彼女。
 彼女は、俺の前に来ると、目線を俺に合わせ言った。
 「大丈夫?
立てる?」
 その優しい声に、俺は彼女を見た。
 「(可愛いお姉さんだ…。)」
「1人で立てる?」
 俺は、うなずいた。
 「じゃあ、立ってみよう。
お姉さん、見ててあげるから。」
 俺は涙を拭いて、立ち上がった。
 「すごい、すごい!!
ちゃんと、立てたね!!
もう、大丈夫かな?」
 俺は、どさくさに紛れて、抱きついた。
 「可愛いー♡」
 彼女は、いきなり抱きついた俺を撫でてくれた。
 俺は、更に、キスもした。
 「ちゅうもしてくれるの?
可愛いー♡」
 そこに、家族が来た。
 「珍しい…。
人見知りの悠斗が抱きつくなんて…。
しかも、キスまで…。」
「え?
人見知りなんですか?
この子…。」
「ええ。
初対面の人には、大泣きするんですよ。」
「そんなに?!
あたしには、すぐに来てくれたけど…。
ボク、人見知りさんなの?」
 俺は、人見知りが分からなくて、きょとんとしていた。
 それが可愛く見えたのか、彼女はまた「可愛いー♡」と言って、抱きしめてくれた。
 俺は、嬉しくて、デレデレになった。
 彼女は、俺を抱き上げてくれた。
 「(お姉さん、可愛い…。)」
 俺は、益々、デレデレ…。
 しばらく、俺は、彼女に抱きついていた。
 そして、彼女とのお別れの時が来た。
 「じゃあね。
ボク。」
 彼女は、俺を母親に預け帰って行った。
 俺の小さな胸は、ドキドキ…。
 顔も赤くなった。
 そう。
 これが、俺の初恋。
 頭の中は、彼女でいっぱい…。
 また、会いたいと思った。
 おばあちゃんの家に帰っても、彼女のことを思って、あまり食べれなかった。
 両親は、あまり食べない俺を見て、病院に連れて行こうとした。
 「どうしましょう…。
パパ、どこか病院ない?」
「時間も時間だから、ないかもしれん…。」
「どうしましょう…。」
「熱は測ったのか?」
「ええ。」
「何度?」
「37℃」
「子供にとっては普通だな…。」
「でも、ご飯ほとんど食べてないのよ?」
「うーん…。
どうしたもんか…。」
 そこに、高校生の兄が来た。
 「心配ないって。
ただの初恋だろ?」
「初恋?!」
 両親は叫んだ。
 「まだ、3歳なのよ?
初恋なんて…。」
「初恋に歳なんて関係ないでしょ。」
「そうそう。
兄さんの言う通り、初恋に歳は関係ないよ。」
「悠斗、恋したの?」
「本人に言っても分からないでしょ。
3歳なんだから。」
「でも、初恋するなんて…。
誰にしたのよ?」
 兄達は、声を揃えて言った。
 「悠斗が、自ら抱きついた子。」
「あの子?!」
 両親は、声をそろえて言った。
 「それしかないでしょ。
人見知りの悠が、自ら抱きつきに行ったんだから。
悠斗、今日のお姉さんのこと、好きになったのか?」
 なんとなく、彼女のこと言われてる気がして、俺はにこにこ、照れ照れした。
 「ほらな。
初恋だよ。」
「悠斗…。
そんなにお姉さんのこと、好きになっちゃったの?」
 照れ照れの俺。
 「こんなんだったら、彼女の連絡先聞いとけば良かった…。
俺も可愛いと思ったんだよなぁ…。」
「圭介、あんたも初恋?」
「俺の初恋は、もう済んでるよ。」
「嘘でしょ?!
いつだったのよ?!」
「言うわけないじゃん。」
「初恋で、ご飯が食べれないのは困るなぁ…。
ははは。」
「オヤジ、俺に任せて。
悠斗。
ご飯の席に座ろう。」
「なにするの?」
「まぁ、見ててよ。
悠斗。
ご飯食べよ?」
 俺は、顔をぶんぶん振った。
 すると、圭介兄は、魔法の言葉を言った。
 「彼女、沢山食べる人が、好きなんだって。
悠斗。
これ全部食べれないなら、彼女なんて思うかな?」
 俺は、慌てて食べた。
 「すごい!!
ちゃんと食べた!!
圭介なんて言ったの?」
「内緒。」
 俺達は、おばあちゃんの家に泊まって、次の日に帰った。
 サービスエリアで、同じ年くらいの子は、俺のことが気に入ったのか、俺に、にこにこで近づいて来た。
 俺は、彼女のことしか頭にないから、女の子が近づいてくる度に大泣き…。
 俺の泣き声に、家族が聞きつけて来てくれた。
 「ごめんね。
この子、人見知りなの。」
 母親のこの言葉で、女の子の親は、「すみませんでした。」と言って、女の子を連れて行った。
 「ホントに、初恋なのね…。
かなり年上の人に恋したのね…。
また、彼女に会えたらいいね。」
「ホントだな。」
 俺達は、家に帰って来た。
 俺は、ここに居ては、彼女に会えないと思って、大癇癪を起こした。
 毎日、俺は、大癇癪を起こして、両親を困らせた。
 圭介兄も、涼太兄も、楓姉も、お手上げ状態。
 でも、彼女に会えないことに、癇癪起こしてると思われず、どうしようもない日々が過ぎていった。
 「(彼女に会いたい!!)」
 そんなことしか考えられない俺も、幼稚園に通う年になった。
 幼稚園では、クラスの女の子の中で、誰が好きかを言うことが多くなった。
 俺の答えは、勿論、彼女。
 だから、クラスには居なかった。
 クラスの友達は、「そんなことない。」、「本当は、誰が好き?」と何度も聞かれた。
 そこに、クラスの女の子達が来た。
 「何してるの?」
「あ、しおりちゃん…。」
「秘密の話し?」
「そう。
秘密のお話し。」
 しおりちゃんは、クラスの中で、1番人気の子。
 「しおりにだけ、教えて?
他の人には言わないから。」
「分かったよ。
でも、絶対、秘密だよ?」
 ゆうじくんが言った。
 「うん。」
「みんなで、クラスの子の中で、好きな子の名前言ってたんだ。」
「ふぅん…。
しおりのこと好きな人は?」
「それは内緒だよ。」
「教えて!!
じゃあ、悠斗くんの好きな人は?
しおり?」
「違うよ。」
 俺は正直に答えた。
「そんなわけない!!
しおりでしょ?!」
「本当に違うよ。」
「じゃあ、誰?!」
「内緒!!」
「やっぱり、しおりなんじゃん。」
「しおりちゃんじゃないよ。」
「しおりでいいじゃん!!
今から、しおり悠斗くんの彼女!!」
「ヤダ!!」
「じゃあ、好きな人教えてよ!!」
「なんで?
しおりちゃんのこと好きな人いっぱいいるじゃん。」
「しおりは、悠斗くんがいいの!!」
「ぼく違う人が好きだから。」
「誰なの?!」
「みんなの知らない人。」
「誰なの?!」
「しおりちゃん、しつこいよ。」
「だって、知りたいんだもん!!
答えてよ!!」
「分かった!!
言うよ!!
おばあちゃんの家に行った時に出会った人!!」
「名前は?」
「知らないよ。」
「そんな人が好きなの?!」
「うん。」
「しおりの勝ちじゃん!!
名前も分からないなんて…。
悠斗くんが好きでも、その人は悠斗くんのこと、好きじゃないかもしれないじゃん!!」
「しおりちゃん嫌いっ!!」
 俺の一言で、しおりちゃんは泣き出した。
 その日のお迎えの時間。
 俺が、友達とケンカしたと、親に報告された。
 理由を聞かれて、俺はポツポツと話した。
 「そっか…。
悠斗の好きな人は、あの時のお姉ちゃんだもんね。」
「うん。」
 そこに、しおりちゃんと、しおりちゃんのお母さんが来た。
 「ちょっと、北原さんっ!!
しおりから聞きましたけど、悠斗くん、しおりのこと嫌いって言ったそうで…。
しおりのどこが気に入らないの?!
しおりが折角付き合ってあげるって言ったのに、断るだなんて…。
どう言うことですか?!
しおりと付き合ってください!!」
「山岡さん…。
悠斗は、もう好きな人がいるんです。
その人しか、見えてないんです。
すみません。
親として、悠斗の気持ちを無視なんて出来ません。
諦めてください。
それでは、失礼します。」
 俺は母親に手を引かれ、帰った。
 母さんは、夕食の時に、今日あったことを話した。
 「ははは。
悠斗には、もう好きな人いるのにな。
悠斗、モテるんだな。」
 他の人に言わせれば、俺はモテるらしい…。
 でも、そう言う人は、俺の顔だけ見てて、中身を見てくれなかった…。
 次の日、幼稚園に行くと、友達に話しかけても、友達が無視するようになった。
 無視するのは、しおりちゃんのこと好きって言ってた奴ら。
 「(だって、好きじゃないんだもん…。)」
 俺は、どうすれば良いのか悩んだ。
 このことは、お迎えに来てくれた母に、担任が話した。
 母親もどうするべきなのか悩んだ。
 その日の家族会議。
 「どうせ、悠斗が…その…山岡さんだっけ?
そこの娘と付き合っても、妬みで口を聞いてくれんだろ…。」
 と、パパが言った。
 「それに、悠斗の気持ちを無視するのもな…。」
 と、圭介兄が言った。
 「大きくなれば、変わるさ。
それまで、悠斗にはキツいかもしれんが、耐えてもらうしかないな…。」
 パパと圭介兄の意見で、俺は我慢することになった。
 次の日。
 しおりちゃんが、俺のとこに来た。
 「悠斗くん、お友達いなくて可哀想…。」
「(自分が、そうしたくせに…。)」
「しおりのこと彼女にしてくれたら、お友達とお話し出来るよ?」
「別にいい。
ぼく、1人で。」
「寂しくないの?」
「好きでもない人、彼女にする方が嫌だ。」
「なによ、それ!!」
「ぼくに構わないでよ。」
「ふん!!
悠斗くんなんて知らない!」
 しおりちゃんは、怒りながら去った。
 このことも、お迎えの時に、担任から親に話しがいった。
 「北原さん!!
悠斗くん、また、しおりのことフったらしいじゃないですか!!
もう、しおりと付き合ったら良いじゃないですか!!
何が気に入らないんです?!」
「山岡さん…。
前にも言いましたが、悠斗は、違う人が好きなんです。
悠斗は、その子のことしか考えられなくて、ご飯も食べれなくなった時もあるんです!」
「でも、このまま、みんなから無視されても困るでしょ?」
「そのために、悠斗の気持ちを無視しろと…?」
「そうです!!」
「山岡さん。
山岡さんが、しおりちゃんを思うように、私たちは悠斗のことを思っています。
諦めてください!
失礼します!!」
 母親は、俺の手を握って、家路に着いた。
 その日の夜。
 また、家族会議が開かれた。
 「また、山岡さんか…。
諦めるって知らんのか?」
「山岡さんのせいで、悠斗は無視され続けて、幼稚園行くのもぐずるし…。」
「うーん…。
どうしたもんか…。
あ、明日の休みに道後の方に行こうか?
温泉でリフレッシュも必要だろ。」
「いいの?
パパ。」
「ママ、こんな時だから、リフレッシュしよう!」
「そうね。」
 次の日。
 家族みんなで、道後温泉に行った。
 そこで、運命を感じる出来事が…。
 そう。
 彼女に会えたのだ!!
 彼女は、俺に気付いて、近付いて来てくれた。
 「ボク、久しぶりだね。」
「お姉さん…。」
 俺の鼓動は高まり、顔は真っ赤で、デレデレの顔になった。
 この時を見逃さなかったのは、圭介兄。
 「この子、俺の弟なんだよね。
名前は、悠斗。」
「そうなんですか?
可愛い弟さんですね。
あたしの名前は、月と書いてゆえって言うんです。
変わった名前でしょ?」
「いや、ステキな名前だと思いますよ。」
「ありがとうございます、そう言ってくれて…。」
 圭介兄が、彼女と話す度、俺は嫉妬心を抱いた。
 そんな俺を見て、彼女が近付いて来た。
 「悠斗くん。
おいで。」
 彼女は、俺においでのポーズをした。
 俺は、すかさず、彼女のとこに行った。
 「悠斗くん、可愛いね。
お姉さんのこと覚えてる?」
 俺は、必死に頷いた。
 そして、彼女にキスした。
 「今日もキスしてくれるの?
ありがと!!」
 彼女は、俺を抱っこしたまま、俺の両親と話し始めた。
 両親は、俺が彼女にベタ惚れしてること、初めて会った時から一目惚れしたこと、幼稚園で無視されてること、全て話した。
 「そうだったんですね…。
悠斗くん、ありがと!」
 そう言って、俺のほっぺにキスしてくれた。
 そして、しおりちゃんの親に連絡してほしい!と頼んだ。
 両親は、しおりちゃんの親に電話した。
 彼女は、電話を代わり、しおりちゃんの親と話し始めた。
 「初めまして。
ゆえと申します。
悠斗のこと、いじめないでいただけます?
悠斗の彼女は、あたしなので。
あたしと悠斗の間に、しおりちゃんの入る隙はありません。」
「なんでよ?
あなた、悠斗くんの何?」
「彼女です。」
「彼女って…。
かなり、歳上ですよね?
しおりのほうが…。」
「恋に年なんて、関係ありません。
どんなに、しおりちゃんが、悠斗のこと好きでも、悠斗が好きなのは、あたしですから!
もう、キス済みですし!!
悠斗としおりちゃん、キスしたことあるんですか?
ないですよね?
あたしの方が彼女と言うことで!
なんなら、しおりちゃんに、悠斗とのキス見せましょうか?」
「出来るものなら!!
しおり、悠斗くんから!」
 電話の奥から、しおりちゃんの返事が聞こえた。
 「悠斗くん、考え直してくれたの?」
 彼女は、動画に変更した。
 「残念でした。
悠斗の彼女のゆえです!
悠斗、ゆえにキスして?」
 俺は、頷き、彼女にキスした。
 しおりちゃんは大泣き。
 「二度と、悠斗のこといじめないでね?
彼氏が、ツラい思いしてるの、耐えられないから!」
 彼女の言葉で、しおりちゃんは大泣きし、しおりちゃんの親は激怒。
 しおりちゃんの親と彼女の口喧嘩は長かった。
 俺は、何度も彼女にキスしまくった。
 最後には、しおりちゃんの親が折れ、彼女の勝利!
 「ふぅ…。
電話ありがとうございました。
また、悠斗くんがいじめられることがあったら、連絡してください。
何度だって、闘いますから。
これ、あたしの連絡先です。」
「わ…分かりました。
ありがとうございます。
悠斗、おいで。」
 俺はイヤだと首を振り、離れようとしなかった。
 「ゆえさん、困るでしょ?」
 それでも、イヤだと首を振った。
 「悠斗くん。
ゆえと何したい?」
「ちゅう!!」
「いいよ。
ちゅ。
他には?」
「でぇと。
ご飯。」
「いいよ。
何食べたい?」
「うどん。」
「おうどん?
いいよ。
食べに行こうか。」
「うん。」
「ゆえさん、良いんですか?」
「一人旅なので、時間はあります。
悠斗くんのご家族が大丈夫であれば…。」
「では、お言葉に甘えさせていただきます。」
「あ、それから、悠斗くんの食事代と自分の食事代は出させていただきます。
デートですから。」
「良いんですか?」
「良いですよ。
悠斗くんも、その方が納得するかと…。」
「すいません…。
ありがとうございます。」
「じゃあ、悠斗くん。
行こっか。」
 俺は、彼女に抱っこされたまま、うどん屋に行った。
 彼女は、俺を隣に座らせ、メニューを見た。
 「悠斗くんは、お子様うどん?」
 俺は、うんうん。と頷いた。
 彼女は、俺にあーんさせてくれて、俺は幸せいっぱいになった。
 そして、彼女とバイバイする時間になった。
 「悠斗くん、またね。」
 俺は、イヤイヤしたが、両親に離されてしまった。
 次の日。
 幸せたっぷりに起きて、幼稚園に行った。
 そして、しおりちゃんに、話しかけられた。
 「悠斗くん!!
昨日のあれ何?!」
「彼女とちゅのこと?」
「そうよ!!」
「あの人が、ぼくの彼女。
昨日でぇとしたの。」
「でぇと?!」
「そうだよ。
うどん、あーんして食べさせてもらった。
いっぱい、ちゅした。」
「許せない!!」
「どうする気?
ぼくのこといじめたら、彼女に言うよ?」
「しおりともちゅして!!」
「ヤダよ。
ぼく、彼女いるし。
また、ぼく達のちゅ見たいの?」
 しおりちゃんは、大泣きして、担任のとこへ…。
 帰り、しおりちゃんのママに止められた。
 「北原さん!!
昨日のゆえって子なんなんですか?!」
「悠斗の彼女です。
悠斗のこと言ったら、電話してくれたんです。
それから、悠斗が、まだ、いじめられるようなことがあれば、連絡くださいとも…。」
「そうなんですか…。
随分、歳上の方と付き合ってるんですね。」
「ええ、まぁ…。」
「おばさん好きなんですか?」
「彼女、おばさんじゃないですけど?」
「おばさんでしょ。
悠斗くんからしたら。」
「悠斗は、彼女のこと、彼女って思ってますから、ご心配なく。
悠斗、帰るよー!!」
「はーい。」
 俺は、母親の元に走って行った。
 「悠斗くんのお母さん。
悠斗くん、かな歳上の人と付き合ってるとか…?」
「ええ、そうですよ?
昨日、デートしたんですよ。」
「大丈夫なんですか?
そんな歳上と…。」
「ええ。
これ、デートの様子です。」
 母親は、昨日の写真を見せた。
 「この子が彼女さん…?」
「そうですよ?」
「可愛い方ですね。」
「そうなんです。
悠斗、この人誰?」
「ゆえ。
ぼくの彼女。
ゆえ、会いたい…。」
「昨日会ったでしょ?
また今度。
じゃあ、失礼します。」
 俺は、母親と家路に着いた。
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