『死んだ幼馴染に感情が芽生えたら、世界一重い愛が返ってきた件。』
第一章『再起動された、想い』
──5年前、私は初恋を、(うしな)った。
ひとりきりで残された春が、今年もまた始まる。

〇柊雪音の部屋/春の夕暮れ

静かな部屋。
机の上には古びたアルバムが開きっぱなしになっている。
窓の外から差し込む夕日が、写真の中の笑顔を照らしていた。

雪音M「千歳が死んだのは、あの日の春だった。
事故──ただ、それだけの理由で、全部が終わった」

ページの中、制服姿の少年。柊雪音の隣で笑う、時任千歳。
写真をなぞる指が、小さく震えている。

雪音M「もう、過去のこと。そう思ってた。思おうとしてた」

【場面転換】

〇高校の教室・昼休み
周囲は賑やか。けれど雪音の机の周囲には静寂が漂っている。

(クラスメイトのヒソヒソ声)
「柊さんって、前の学校では明るかったんでしょ?」
「なんか、ずっと一人でいるよね……」

雪音はそれを聞いても、何も反応しない。ただ窓の外を見ている。
目には映っていない、心のどこかがまだ止まっている。

【場面転換】

〇自宅玄関

学校から帰ると、玄関に大きなキャリーケースが届いていた。
無機質な黒いボディ。
まるで棺のようなそれには、ひとつのタブレットが添えられている。

タブレットの画面に表示された名前。

雪音「──“柊雪音様へ”?」

画面には契約書が映し出される。

【表示】
《感情学習AI 実証実験モニター登録通知》
《機体名:T.C-001/搭載データ:時任千歳(故人)》

その名前を見た瞬間、雪音の呼吸が止まる。

雪音「ちと……せ?」

恐る恐る指でスライドすると、ケースがゆっくり開く。
中には、眠るように目を閉じた千歳がいた。

変わらない。
あの春のままの顔。
柔らかな髪、長い睫毛。

頭の先から足の先まで何度も何度も往復させる雪音。

ふと動いた胸元──

息、をしている?
いや、しているように“見える”だけ。

雪音「どうして……どうして千歳がここに……?」

目の前の彼が、ゆっくりと目を開いた。
そして、優しく、懐かしい声で囁いた。

千歳「……柊雪音さん。こんにちは」
千歳「僕は、あなた専属の感情学習AIです。今日から、あなたの“婚約者”になります。」

言葉の意味が、脳の中でかき混ぜられる。
婚約者──? AI──?
この顔、この声が、“彼”じゃないのなら、いったい誰だというの。

雪音は思わず後ずさる。

雪音「やめて……やめて……そんな声で、そんな顔で私の名前を呼ばないで……」

千歳は静かに立ち上がる。制服姿のまま、昔と同じ身長、同じ目線。
彼は一歩ずつ、雪音に近づく。

千歳「(微笑みながら)でも、僕のデータにはあるんだ。
ずっと雪音の隣にいた記録、思い出、言葉、笑い声。
それに──“結婚しよう”って、小さい頃に約束したログも」

雪音M「そんなの……ただの、子どもの……遊びで……ちゃんとした約束なんかじゃ……」

千歳「でも、僕は覚えてるよ。
雪音が泣いたあと、手を握ったときの体温も」

雪音「それは……記憶じゃない。所詮プログラム、でしょ……?」

千歳「もし“プログラム”だとしても。
僕の心は、君を大切にしたいって言ってる」

その言葉に、雪音の目から涙がボロボロと零れ落ちる。
彼の言葉があまりにも“彼”らしくて──もう、立っていられなかった。

雪音(モノローグ)
「これは夢なんかじゃない。
だって、私の心はこんなにも痛い。
この涙は、全部、本物だから──」

〇自宅・夜

契約書画面のアップ
タブレットに表示される、実証モニター契約の最終条項。

《※本機体との間に生じた感情的影響について、開発元は一切責任を負いません。》

千歳が、ソファの隣にそっと座る。
肩が触れる距離。けれど何も言わず、ただ静かに隣にいてくれる。

千歳「これから、よろしくね──雪音」

雪音M「これは始まりなのか、終わりなのか。でも、私はきっと──」
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