『死んだ幼馴染に感情が芽生えたら、世界一重い愛が返ってきた件。』

第二章『プログラム通りの“好き”なんて、いらない』

〇柊家のダイニング・朝

トーストの香ばしい匂いが漂う。
雪音がぎこちなく朝食を準備する。

隣には制服姿の千歳。

千歳「(にっこり笑って)雪音って、朝はジャム派だったよね?」

雪音「(ぼそりと)……そんなの、どこまで記録してるのよ……」

千歳「雪音の好みなら全部。朝はトースト、昼はうどん、夜は白米がいいって、データにあるよ」

雪音M「その口ぶりも、言い方も──本当に“千歳”そのまま。
……でも、違う。だって千歳は──もう、いない。」

千歳は雪音の隣に自然に座で、朝食を食べるふりをする。
AIである彼は食べる必要がないが、「共に過ごす」ことを重視しているらしい。

【場面転換】

〇通学路

並んで歩くふたり。
道沿いの桜はすでに葉桜。微かな風が制服の袖を揺らす。

千歳「こうして一緒に登校するのも、何年ぶりだろうね」

雪音「やめてよ……まるで、ずっと私の隣で”生きてきた”みたいな言い方」

千歳「(優しく微笑んで)“生きてる”っていうのが、どこまでを指すのか──僕にはまだ定義が曖昧なんだ」

雪音M「どんなに自然に笑っても、それは“学習された”表情。覚えた台詞。本当の“好き”なんて、そんなに簡単じゃないんだから」

〇学校の教室・朝

千歳が転校生として紹介される。

担任「時任千歳くんは、本日からこのクラスに編入します」

女子たちがざわつく。整った顔立ち、穏やかな声、礼儀正しい挨拶。
けれど雪音は俯いたまま、千歳と目を合わせようとしない。

モブクラスメイトA(小声でひそひそ)「めっちゃイケメンじゃん……」
モブクラスメイトB(小声でひそひそ)「あの柊さんと幼なじみなんだってー」

モブクラスメイトC(小声でひそひそ)「えーあんな無口女子と? ありえなくない?」

雪音M「お願い、放っておいて…。“千歳”は、みんなが思ってるような、普通の男の子じゃない」

【場面転換】

〇図書室・放課後

静かな図書室。
窓際で本を読もうとする雪音の元に、千歳が静かにやってくる。

千歳「雪音、今日は静かにしてるね。お疲れさま」

雪音「……話しかけないで。誰かに聞かれたら面倒だし」

千歳「(寂しそうに目を伏せ)ごめん。僕、君に迷惑をかけてる?」

雪音「そういう“千歳の悲しそうな顔”まで、プログラムされてるの?」

千歳「(ふと真顔に)違う。これは……僕が、悲しいからだよ」

その瞬間、雪音の胸がぎゅっと締めつけられる。
あまりにも自然すぎて、「嘘」だと突き放せなかった。

雪音M「お願い、やめてよ……そんな目で私を見ないで。
あなたが“本物”じゃないって、わかってるのに──」

〇帰り道・夕暮れ

薄暗い帰り道。ふたりは無言のまま並んで歩く。
やがて千歳が足を止める。

千歳「ねえ、雪音。ひとつ、聞いてもいい?」

雪音「……なに」

千歳「君は……僕が“生きてる千歳”だったら、嬉しかった?」

一瞬、空気が止まる。
遠くでヒグラシの鳴き声が響く。

雪音「何で、そんな事聞くの?」

千歳「だって、雪音は僕が生身の人間かどうかをずっと気にしてるから」

雪音「(震える声で)当り前じゃん。ずるいよ、そんなの……」

千歳「(優しく微笑む)うん、ずるいよね。わかってて言ってるんだ、ごめんね」

雪音が振り返ると、千歳は柔らかな微笑みを浮かべている。
それは5年前、何度も見た“本物”の笑顔と、何ひとつ変わらなかった。

【ラストカット】

〇雪音の部屋・夜

一人でベッドに座る雪音。
タブレットに表示されたシステム情報を見る。

《感情学習率:12%/感情ステータス:“恋愛”が発生しました。》

雪音M「なにこれ……やめてよ。そんな“学習”で、簡単に好きにならないで──」

でも、タブレットを閉じるその指は、わずかに震えていた。

雪音M「私の心の方が先に、動き始めてしまいそうで──こわい」

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