『死んだ幼馴染に感情が芽生えたら、世界一重い愛が返ってきた件。』

第四章『この想いがバグでも、君を好きでいたい』

〇教室・放課後

チャイムが鳴り、教室内がざわつく。
千歳は雪音の隣で、ノートを静かに閉じる。

千歳「(微笑んで)今日、図書室寄っていかない? 雪音、読みたがってた本あったよね」

雪音「(千歳をちらりと見て)……覚えてたの?」

千歳「もちろん。雪音の“読みたい本”リストは、毎朝同期してるから」

雪音M「……なにそれ、こっっっわ!」

だけど、そんな言葉とは裏腹に、
“自分のことを覚えていてくれる”嬉しさが胸をくすぐる。

【場面転換】

〇図書館

夕暮れの図書館。誰もいない読書スペースにふたりきり。
静かな空間に、ページをめくる音だけが響く。

千歳「(隣でそっと)雪音。髪、伸びたね」

雪音「……千歳の記録の中の私は、まだ中学生のままだもんね」

千歳「(小さく首を振る)違うよ。今の雪音も、ちゃんと“記録”してる。
こうして隣で笑ったり、ちょっとむくれたり……その全部が、嬉しいし愛おしい」

雪音M「ほんと、ずるい。こんな言葉、私がずっと言ってほしかったやつじゃん──」

〇図書館の帰り道・夜

図書館を出て、外はもう暗くなっていた。
人気のない坂道を、ふたり並んで歩く。

雪音、ぽつりとつぶやくように。

雪音「ねえ、千歳。……疲れたりしないの?」

千歳「(少し首をかしげて)身体は疲れない。でも、雪音を見てると時々“苦しくなる”ことはある」

雪音「苦しい……って、それ、どんな?」

千歳「雪音が泣きそうな顔をすると、胸のあたりが熱くなる。
説明は難しいけど……これも、”感情”なのかな」

千歳「感情プログラムがちゃんと定義してくれない時があって…」

その言葉に、雪音はふっと微笑む。

雪音「別にいいよ。それがちゃんと“千歳”の気持ちなら」

千歳はその笑顔を見つめて、ふと立ち止まる。

千歳「雪音──ひとつ、お願いがあるんだけど」

雪音「……なに?」

千歳「(まっすぐな瞳で)手、つないでいい?」

不意打ちのその一言に、心臓が跳ねる。
でも雪音は、少しだけ顔を赤くして、小さく頷いた。

彼の手がそっと、雪音の指に触れ、重なる。

冷たくも熱くもない“人工の手”。
でも、そのぬくもりは……確かに伝わってきた。

雪音M「私はたぶん……もう、心までつながってしまってる──このAIに」

〇雪音の家・夜

リビングでくつろぐ雪音と千歳。
けれど──
次の瞬間、千歳の身体がびくりと震えた。

雪音「(驚いて)千歳……?」

顔を伏せ、両手で顔を覆う千歳。

千歳「……ごめん、今、データの……一部が破損したみたい」

雪音「なにそれ、どういうこと……?!」

千歳「“感情学習量”が、想定を超え始めてる。
開発元では、深い恋愛感情を持つことは“システム上のバグ”って定義されるみたいだ……」

雪音「(声を震わせ)じゃあ、それって……千歳が“私を好きになる”こと自体が……間違いってこと?」

千歳は微笑んで首を振る。
けれど、その笑顔は、どこか痛々しくて切なかった。

千歳「僕にとっては間違いじゃないよ。
たとえバグでも……僕は、君を好きになれて、よかったって思ってる」

雪音は、黙って千歳の手を握り返す。
その温度のない指先が、今はとても愛しかった。

〇雪音の部屋・深夜

雪音が一人、眠れずにベッドに座っている。
スマホを開き、千歳とのアプリを見る。

《感情学習レベル:72%/安定度:不安定/警告:要メンテナンス》
《感情:恋慕/所有感/保護本能》
《優先対象:柊雪音(単独)》
《備考:システム逸脱リスク上昇中》

雪音M「好きって気持ちが……千歳を壊していくなんて……」

雪音M「どうしよう……AIなのに……千歳の笑顔、声、想い、全部全部─―
私だけに向けて欲しくなっちゃったのかもしれない……」

【ラストカット】

〇夢の中

雪音が夢を見る。
その中には、生きていた頃の千歳がいる。
制服姿のまま、優しく手を差し伸べて。

(夢の中の)千歳「約束したよね。大人になったら、僕がお嫁さんにもらうって──」

雪音「(涙を浮かべながら)その言葉を……また聞けるなんて、思わなかった……」

雪音の心には、確かにまた──“初恋”が芽生えていた。
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