隠れる夜の月

プロローグ



「……俺の、子供を産んでくれる?」

 直後、相手はペットボトルのお茶を噴き出した。

 目を白黒させ、咽せて咳き込む様子に、思いきり間違えたのだと気づいた。
 言うタイミングもだが、なにより順番を。

 まだ付き合ってもいない──現状、会社の先輩後輩の間柄でしかない相手に対し、口にする言葉ではなかった。
 たとえ、本気でそう思っているのだとしても。

 やっと咳を止められた相手が、潤んだ目でこちらを見る。
 視線がまともにぶつかった。
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