偽装婚約しませんか!?
 怒られる気配を感じながら先を促すと、咳払いが聞こえてきた。
 ローレンスはテーブルを回り込んでヴィオラの前までやってきて、片膝をつく。それから、胸に手を当て片手を差し出した。
 まるで騎士が姫に忠誠を誓うように。

「――ヴィオラ・セルフォード令嬢。他の男ではなく、俺を選んでくれ。俺にとっても君と過ごす時間はかけがえのない楽しい日々だった。君の代わりなんて誰にも務まらない。俺の心を解きほぐせるのはヴィオラだけだ。俺は、君を妻に望む」
「ななななっ……!?」
「どうか俺の手を取ってほしい」

 ヴィオラは無意識に震える指先を伸ばしかける。
 けれど、途中で我に返った。あわてて手を引っ込めて、自分の胸に押しつけた。

(……あ、危なかった)

 叶うことならば、この手を取りたい。それは本心だ。
 しかし、それはできない。貧乏子爵令嬢が王家に嫁ぐなど、身分差という壁がぶ厚いにもほどがある。平々凡々な見た目、中身も特筆すべきところがない女を娶って、周囲から侮られるのはローレンスである。敬われるべき王族の威信にも傷がつく。
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