偽装婚約しませんか!?
 あとで解消する関係だったから、ヴィオラは婚約者になれたのだ。けれども結婚するとなれば話は別だ。第二王子の妃という地位はヴィオラには荷が重すぎる。
 どれだけ彼を好きでも、お互いが不幸になる結婚は避けるべきだ。
 ヴィオラは自分を慈しむような視線から逃げるように目を伏せ、力なく首を横にふるふると振った。懇願するように自分の両手を握りしめ、震える唇を開く。

「で、殿下……。ですが、あの、わたくしは結婚相手として何もかも不足しております。わたくしは仮初めの婚約者という立場で充分です。どうかお考え直しを……っ」
「ローレンスと、呼んでくれないのか?」

 悲しげな声音で紡がれる言葉に、はっと顔を上げる。
 婚約者のふりをしていた間は、彼のことは名前で呼んでいた。他でもない本人から要望があったからだ。
 しかし、そんな不敬が許される間柄ではもうない。ローレンスはこの国の第二王子であり、ヴィオラはただの子爵家令嬢。いくら学園内は平等にという規律があろうと、臣下としての心構えを忘れてはいけない。本来、気安く話せる間柄ではないのだから。
< 32 / 39 >

この作品をシェア

pagetop