偽装婚約しませんか!?
 ヴィオラはベンチの前に進み出た。動揺する彼らに不審人物ではないことを証明するため、腰を落として淑女の礼をする。
 素に戻ると令嬢らしからぬ言動になるが、これでも淑女教育は一通り施されている。気を張っていれば、ちゃんと貴族らしい言葉だって話せるのだ。ちょっと気疲れするだけで。

「お話の最中に割り込んでしまって申し訳ございません。セルフォード子爵が長女、ヴィオラと申します。実は、父から婚約者を決めろとせっつかれて非常に困っているのです。女の結婚適齢期は短い。父の心配も理解していますが、わたくしは恋愛結婚を望んでいます。ですが、まだ相手は見つかっておりません。わたくしは時間稼ぎがしたい。……どうでしょう? 殿下と利害は一致していると思うのです」
「……いや、しかし……」
「殿下の目的が達成された際、速やかに婚約破棄してくださって構いません。傷物令嬢になれば、それを理由に働きに出ることもできます。わたくしは愛のない結婚はしたくないのです。ですから、わたくしと……」

 そこで言葉を句切り、目を丸くしたままのアイスブルーの瞳をひたと見据える。
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