キミが見えるその日まで

第六話

律モノローグ【球技大会が終わって、いろんなことが変わった】

○ ゆつぎの教室前・登校時間
いつものように教室前でゆつぎと別れる。
すぐにゆつぎの周りにクラスメイトが声をかける。
クラスメイト女子1「ゆつぎちゃんおはよう」
クラスメイト女子2「ねえねえこれ見て~」
【最初の頃の好奇の目を向けられるんじゃなくて、ちゃんと同じクラスの仲間として笑顔を交わし合っている】

〇三年の教室
教室に入って席に着くとすぐに、同級生の男子が話しかけてくる。
クラスメイト男子「なあ、夏目ってさ、一年の一ノ瀬って子の幼なじみなの?」
律「……なんで」不機嫌丸出しの態度。
クラスメイト男子「いや、ちょっと噂になっててさ。よく見たら夏目が毎日一緒に登校してる子じゃん?って思って」
律「噂って何のこと?」
律のオーラにタジタジになる男子。
クラスメイト男子「ほら、球技大会でいろんな会場で目立ってたし、クラスのプレイリストのやつもあの子の提案だったって聞いて」
律のこめかみがぴくりと動く。
律「そういうの広めんな」イライラした態度。
クラスメイト男子「え? あ、うん……」
男子が少し気まずそうに黙り離れていく。
【別に悪い話じゃない。でも自分以外の誰かがゆつぎを話題にすることが、妙に胸に引っかかる】
鍵山「すっかり噂になっちゃってるな〜、律の幼なじみちゃん」
ニヤニヤしながら鍵山が近づいてくる。
鍵山「まさかあのくらいで嫉妬してんの?」
律「してねえよ」
鍵山「マジかよ余裕なさすぎて笑えるんだけど!イケメンが台無しだな」
律「うるさい、ほんと黙れ」
バシッとノートで頭をはたかれる鍵山。
鍵山「痛っ!」

○ 渡り廊下・昼休み
渡り廊下で資料を抱えたゆつぎが歩いているのを後ろから見つける律。
そこへ数人の上級生が通りかかる。
上級生男子「あれ、君って確か一年生の子だよね?D組だっけ?」
ゆつぎ「え……あ、はい、そうです」
突然話しかけられて驚くゆつぎの顔。
律(何だあいつ)律の目がすっと細められる。
上級生男子「やっぱり!球技大会で記録係やってたよね?頑張ってたし、可愛い子がいるなーって思ってたんだ」ニコニコと話しかけてくる。
ゆつぎが戸惑いながら笑顔を返す。
上級生男子1「もしかして彼氏とかいたりする?よかったら今度、」
その瞬間、後ろからゆつぎの腕が引く。
律「……話、長くなりそうなら俺が代わりに聞くけど」
不意に現れた律の低い声に、男子がびくっとなる。
律「その校章の色、二年だよな?なんで二年が入学したての一年に『彼氏いるか』とか聞く必要がある?」
男子は完全にしどろもどろになり、逃げ場を探すように目を泳がせる。
次の瞬間、男子との距離を詰める。
律「この子は俺のだから。変なこと考えてるなら容赦しない」※ゆつぎには聞こえない。
場の空気が凍りつく。
上級生男子「……す、すみません!!」
そう言い残して脱兎のごとく逃げていく男子。
ゆつぎ「律くん、今なんて言ったの?」
少し戸惑ったような顔のゆつぎ。
律「別に…ほら、行くぞ」
ゆつぎが何かを言う前に、ゆつぎが手に持った資料を引き受ける。
律(今はまだ分からなくてもいい。ゆつぎの隣りにいられるならそれだけで俺は――)

○帰り道・下校時間
校門を出て、ゆつぎと並んで歩く律。
木嶋「なあ!一ノ瀬だよね?」
前からやってくる男子。
木嶋「やっぱり!覚えてない?小六のとき一緒に学級委員やってた」
ゆつぎは目をぱちくりさせている。
律(明るくて見た目も悪くない…こういうの何ていうんだっけ、『爽やか系』ってやつ)
ゆつぎ「えっ…もしかして木嶋くん!?」
ゆつぎの声が一段高くなる。
木嶋「同じ高校にいるって知らなかったよ。俺F組で校舎違うから全然会わないし、それに引っ越したって聞いてたから」爽やか笑顔で話しかける。
ゆつぎ「うん、高校入学のタイミングで戻ってきたの」
木嶋「そうだったんだ。この前の球技大会で一ノ瀬の名前聞いてさ、もしかしてって思ったんだよ。すっかり変わったな~」
ゆつぎ「木嶋くんこそ、背も高くなってるし眼鏡してないし、一瞬分かんなかったよ」
律は腕を組んで黙って様子を見ている。
木嶋「気づいた?実は高校からコンタクトにしたんだ」
笑い合っている二人。
律(……なんだよあの距離感)入っていけない話題&空気に無意識にイライラ。
木嶋と別れて再び二人に。
律「さっきの男、誰?」
ゆつぎ「え?木嶋くんって言って小学校のときの」
律「それはさっき聞いた」
無理やり抑えた口調が、逆に冷たく言い方になる。
ピリついた空気に眉を下げるゆつぎ。
律「あいつの顔は、成長してても雰囲気が変わっててもちゃんと分かるんだな」
ゆつぎを見下ろす律。
律「なのに、なんで俺の顔は分かんないわけ?」
言った直後、自分でも言いすぎたと気づく律。
ゆつぎがぴたりと足を止めた。
ゆつぎ「……ごめん」
ゆつぎは俯いて小さく唇を噛む。その表情を見て罪悪感。
律(……違う。そんな顔をさせたいわけでも、傷つけたかったわけでもない)
どうしようもない感情が胸にあふれて、ゆつぎの手をぐっと引きよせる。
ゆつぎ「っ、律くん……?」
ぽすっと律の胸元に飛び込む形になるゆつぎ。
ゆつぎの肩に顔を埋める律。
律「……ごめん。ちょっと嫉妬した」
耳元で囁くとゆつぎの目は目を見開く。
律の顔はほんのり赤い。
律「ゆつぎは……俺のことだけ見えていればいいのに」(わかってる。勝手なことを言っているのは俺のほうだって)
【たとえ俺の顔が分からなくても。声や仕草や、目線で――『俺』を感じてくれるのは、世界中でお前だけがいい)
ゆつぎ「ごめんね」
律「謝るなって。ゆつぎ自身でもどうしようもないことなんだから」
ゆつぎがゆっくりと顔を上げる。
上目遣いのようになって、その顔にちょっと見惚れる律。
ゆつぎ「でもね、こうして一緒に帰ったりお昼を食べたり…隣りにいても自然でいられるのは『律くん』だからだって思うの」
照れくさそうにしながらも、まっすぐに見上げてくる目。
律「……ほんと、ずるいよな」
律が呟くと、ゆつぎの頬が赤くなって律の制服の袖をぎゅっと握る。
律(ゆつぎがそう言ってくれるだけで、全部許してしまいそうになる)
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