キミが見えるその日まで
第七話
〇教室・昼休み
紬希「ねえねえ、来週の七夕祭り行く?」
紬希がテーブルの上でプリントを片付けながら、ふと顔を上げて言った。
ゆつぎ「七夕祭り?」
紬希「神社とその隣りの緑地公園で毎年やってるやつ!出店とかもやるんだって」
紬希がスマホを見せる。
ゆつぎ「あ、引っ越す前に何回か行ったことあるかも」
紬希「ほんと?じゃあ一緒に行こうよ!」
紬希の誘いにそうだね、と言いかけて、じっとこちらを見つめる相原に気づく。
ゆつぎ(……もしかして相原くん、紬希ちゃんを誘いたいんじゃ?)
ゆつぎ「ごめん、実は中学の友達と行く約束してて…」
ごめん!と手を前に合わせて謝るゆつぎ。
紬希「え〜そうなんだ、ざんねーん。でも楽しんできてね!」
ゆつぎはさりげなく相原へ視線を送る。
(がんばって!)とアイコンタクト。
相原「……じゃあさ、紬希。俺と行かない?」
席を立ちあがり紬希に近づく。
紬希「え、悠馬と? ん〜いいよ、行こっか!」
相原「やった!!」
大きな声で喜ぶ相原に「声でかい!」つっこむ紬希。
微笑ましい光景にゆつぎも笑う。
ゆつぎ(七夕祭りかぁ……)
スマホの画面に目を落とす。
屋台の一覧やステージイベントの情報が並ぶ。
ゆつぎ(そういえば昔、律くんとも行ったことがあったような…)
ゆつぎ(……誘ってみようかな、律くんを)
○校門前・放課後
律の部活が終わりを待つ。
ゆつぎ「……遅いな」
いつもの時間になっても律が来ない。
ゆつぎ(もしかして……もう帰っちゃった?)
【律くんの顔が分からないから、気づかずに目の前を通り過ぎていても私には分からない…】
不安になって陸上部の部室へ向かう。
〇陸上部の部室前
グラウンド横にある陸上部の部室。
そこに向かう途中で声が聞こえてくる。
先輩女子1「ねえ律くん、来週の七夕祭り私たちと一緒に行かない?」
先輩女子2「夏目くん長身だし浴衣とか似合いそう〜!」
数人の女子生徒たちに囲まれている律の姿。
ゆつぎ(……キレイな先輩たち。その真ん中にいるのが律くん…?)
遠巻きに見てそれ以上近づけないゆつぎ。
ゆつぎ(みんなが『律くん』って呼んでるんだからそうなんだろうけど…)
ぎゅっと手を握って、黙って踵を返す。
ゆつぎ(何だか…今は全然違う人みたいに見えた…)
〇帰り道
並んで歩く二人。
律「疲れたな…」
ゆつぎ「練習大変だったの?」
律「大会が近いから追い込みがキツい。次の大会が引退レースになるだろうし」
引退、という言葉にドキリとする。
ゆつぎ(そっか、三年生だもんね…)
律「ところでさ」
ふいに律が口を開く。
律「来週の七夕祭り、行く?」
ゆつぎ「……えっ、」
隣りの律の顔を見上げる。
さっき見た光景が頭をよぎるゆつぎ。※先輩女子たちに囲まれていた絵。
ゆつぎ「……ごめん、実はもう友達と約束しちゃってて」
へら、っと笑いながら断ると律の表情が一瞬だけ固まる。
律「そっか……了解」
前に向き直って歩き出す律。
ゆつぎ(嘘…ついちゃった)俯くゆつぎ。
○図書室・昼休み
誰とも約束をしないまま七夕祭りの前日。
借りた本の返却に向かうとカウンターにいたのは木嶋。
木嶋「あ、一ノ瀬」
ゆつぎ「木嶋くん、図書委員だったんだ」
木嶋「たまに当番サボってるけどな~それ返却?」
ゆつぎ「うん、お願いします」
ゆつぎから本を受け取り作業をする木嶋。
木嶋「一ノ瀬ってさ、明日の七夕祭り行くの?」
ゆつぎ「え?ううん…特に決めてなくて…」
木嶋「じゃあ俺と行かない?」笑顔&軽いノリで。
ゆつぎ「えっ、私?」
びっくりして目を見開く。
木嶋「そう、ちょうど誰も一緒に行くやついなくてさ。あ、嫌なら全然断ってくれていいから!」※あまり下心無し、来てくれたらラッキーくらい。
少しの間迷うゆつぎ。
ゆつぎ「……うん、いいよ」
木嶋「マジ?じゃあ明日連絡するわ。連絡先交換して」
スマホを出して交換しあう。
○自宅・七夕祭り当日(夕方)
母に浴衣の着付けをしてもらっている。
ゆつぎ母「いいわねぇ〜お祭りなんて青春じゃない」
全身鏡に映る自分を見ながら、ゆつぎはそう?と笑う。
ゆつぎ母「うん、ゆつぎはこの色似合うわね。律くんもびっくりするんじゃない?」
突然飛び出した名前にギョッとする。
ゆつぎ「違うよ!律くんじゃなくて小学校のときに同じクラスだった子」
ゆつぎ母「あらそうなの?それって男の子?」
興味津々に聞いてこられて少し気まずいゆつぎ。
ゆつぎ「そうだけど」
ゆつぎ母「やだ〜ゆつぎってば、いつの間にモテ期が到来してたの?」
口に手を当ててニコニコ笑う母。
ゆつぎ「そんなんじゃないってば!ただの友達!」
話を切り上げるようにプイッと横を向いて、アップにまとめた髪を整える。
ゆつぎ(……律くんは誰と行くのかな)(あの綺麗な先輩の中の誰かと…?)
二人が並んで歩く姿を想像して胸が苦しくなる。
そのときインターホンが鳴る。
ゆつぎ母「あら、お迎えが来たんじゃない?気をつけてね〜!」
玄関を開けるとTシャツ&ハーフパンツ姿の木嶋が。
木嶋「すごい、浴衣似合ってる」
ゆつぎ「そうかな?ありがとう」
木嶋「じゃあ、行こっか」
二人は並んで歩き出すも、どこか複雑な表情のゆつぎ。
○ゆつぎの自宅前
律がゆつぎの家の前に立っている。
『ごめん、実はクラスの友達と行く約束しちゃってて』
※断られたときの回想。
律(もう行ってる頃だよな。何でここに来てんだ俺…)
溜息をついて、来た道を戻ろうとする。
ゆつぎ母「あら、律くんじゃない!」
ちょうど玄関から出てきたゆつぎ母。
律「こんばんは…あのゆつぎは?」
ゆつぎ「ごめんなさいね、あの子ならさっき出かけたところなの。男の子が迎えに来てくれて」
律(……男?)
その言葉にフリーズする。
ゆつぎ母「小学校のときに同じクラスだったって。木嶋くん?って言ってたかしら」
律(木嶋――)
脳裏に、数日前の笑い合うゆつぎと木嶋の姿が蘇る。
律(……なんであいつと?)
ぎゅっとこぶしを握り、苛立つ表情。
ゆつぎ母「それでね、あの子浴衣だから下駄を履いていったんだけど、替えの靴を持っていき忘れたのよ。途中で痛くならないといいけど…」
※手に持っている替えの靴が入った紙袋を持って心配顔。
律(そうか、足のケガがあるから…)
律「俺が渡しに行きますよ」
そう言って紙袋を受け取って走り出す。
地面を蹴る足に力を込めて、祭り会場へと一直線に向かう。
律「……っ、間に合え」
紬希「ねえねえ、来週の七夕祭り行く?」
紬希がテーブルの上でプリントを片付けながら、ふと顔を上げて言った。
ゆつぎ「七夕祭り?」
紬希「神社とその隣りの緑地公園で毎年やってるやつ!出店とかもやるんだって」
紬希がスマホを見せる。
ゆつぎ「あ、引っ越す前に何回か行ったことあるかも」
紬希「ほんと?じゃあ一緒に行こうよ!」
紬希の誘いにそうだね、と言いかけて、じっとこちらを見つめる相原に気づく。
ゆつぎ(……もしかして相原くん、紬希ちゃんを誘いたいんじゃ?)
ゆつぎ「ごめん、実は中学の友達と行く約束してて…」
ごめん!と手を前に合わせて謝るゆつぎ。
紬希「え〜そうなんだ、ざんねーん。でも楽しんできてね!」
ゆつぎはさりげなく相原へ視線を送る。
(がんばって!)とアイコンタクト。
相原「……じゃあさ、紬希。俺と行かない?」
席を立ちあがり紬希に近づく。
紬希「え、悠馬と? ん〜いいよ、行こっか!」
相原「やった!!」
大きな声で喜ぶ相原に「声でかい!」つっこむ紬希。
微笑ましい光景にゆつぎも笑う。
ゆつぎ(七夕祭りかぁ……)
スマホの画面に目を落とす。
屋台の一覧やステージイベントの情報が並ぶ。
ゆつぎ(そういえば昔、律くんとも行ったことがあったような…)
ゆつぎ(……誘ってみようかな、律くんを)
○校門前・放課後
律の部活が終わりを待つ。
ゆつぎ「……遅いな」
いつもの時間になっても律が来ない。
ゆつぎ(もしかして……もう帰っちゃった?)
【律くんの顔が分からないから、気づかずに目の前を通り過ぎていても私には分からない…】
不安になって陸上部の部室へ向かう。
〇陸上部の部室前
グラウンド横にある陸上部の部室。
そこに向かう途中で声が聞こえてくる。
先輩女子1「ねえ律くん、来週の七夕祭り私たちと一緒に行かない?」
先輩女子2「夏目くん長身だし浴衣とか似合いそう〜!」
数人の女子生徒たちに囲まれている律の姿。
ゆつぎ(……キレイな先輩たち。その真ん中にいるのが律くん…?)
遠巻きに見てそれ以上近づけないゆつぎ。
ゆつぎ(みんなが『律くん』って呼んでるんだからそうなんだろうけど…)
ぎゅっと手を握って、黙って踵を返す。
ゆつぎ(何だか…今は全然違う人みたいに見えた…)
〇帰り道
並んで歩く二人。
律「疲れたな…」
ゆつぎ「練習大変だったの?」
律「大会が近いから追い込みがキツい。次の大会が引退レースになるだろうし」
引退、という言葉にドキリとする。
ゆつぎ(そっか、三年生だもんね…)
律「ところでさ」
ふいに律が口を開く。
律「来週の七夕祭り、行く?」
ゆつぎ「……えっ、」
隣りの律の顔を見上げる。
さっき見た光景が頭をよぎるゆつぎ。※先輩女子たちに囲まれていた絵。
ゆつぎ「……ごめん、実はもう友達と約束しちゃってて」
へら、っと笑いながら断ると律の表情が一瞬だけ固まる。
律「そっか……了解」
前に向き直って歩き出す律。
ゆつぎ(嘘…ついちゃった)俯くゆつぎ。
○図書室・昼休み
誰とも約束をしないまま七夕祭りの前日。
借りた本の返却に向かうとカウンターにいたのは木嶋。
木嶋「あ、一ノ瀬」
ゆつぎ「木嶋くん、図書委員だったんだ」
木嶋「たまに当番サボってるけどな~それ返却?」
ゆつぎ「うん、お願いします」
ゆつぎから本を受け取り作業をする木嶋。
木嶋「一ノ瀬ってさ、明日の七夕祭り行くの?」
ゆつぎ「え?ううん…特に決めてなくて…」
木嶋「じゃあ俺と行かない?」笑顔&軽いノリで。
ゆつぎ「えっ、私?」
びっくりして目を見開く。
木嶋「そう、ちょうど誰も一緒に行くやついなくてさ。あ、嫌なら全然断ってくれていいから!」※あまり下心無し、来てくれたらラッキーくらい。
少しの間迷うゆつぎ。
ゆつぎ「……うん、いいよ」
木嶋「マジ?じゃあ明日連絡するわ。連絡先交換して」
スマホを出して交換しあう。
○自宅・七夕祭り当日(夕方)
母に浴衣の着付けをしてもらっている。
ゆつぎ母「いいわねぇ〜お祭りなんて青春じゃない」
全身鏡に映る自分を見ながら、ゆつぎはそう?と笑う。
ゆつぎ母「うん、ゆつぎはこの色似合うわね。律くんもびっくりするんじゃない?」
突然飛び出した名前にギョッとする。
ゆつぎ「違うよ!律くんじゃなくて小学校のときに同じクラスだった子」
ゆつぎ母「あらそうなの?それって男の子?」
興味津々に聞いてこられて少し気まずいゆつぎ。
ゆつぎ「そうだけど」
ゆつぎ母「やだ〜ゆつぎってば、いつの間にモテ期が到来してたの?」
口に手を当ててニコニコ笑う母。
ゆつぎ「そんなんじゃないってば!ただの友達!」
話を切り上げるようにプイッと横を向いて、アップにまとめた髪を整える。
ゆつぎ(……律くんは誰と行くのかな)(あの綺麗な先輩の中の誰かと…?)
二人が並んで歩く姿を想像して胸が苦しくなる。
そのときインターホンが鳴る。
ゆつぎ母「あら、お迎えが来たんじゃない?気をつけてね〜!」
玄関を開けるとTシャツ&ハーフパンツ姿の木嶋が。
木嶋「すごい、浴衣似合ってる」
ゆつぎ「そうかな?ありがとう」
木嶋「じゃあ、行こっか」
二人は並んで歩き出すも、どこか複雑な表情のゆつぎ。
○ゆつぎの自宅前
律がゆつぎの家の前に立っている。
『ごめん、実はクラスの友達と行く約束しちゃってて』
※断られたときの回想。
律(もう行ってる頃だよな。何でここに来てんだ俺…)
溜息をついて、来た道を戻ろうとする。
ゆつぎ母「あら、律くんじゃない!」
ちょうど玄関から出てきたゆつぎ母。
律「こんばんは…あのゆつぎは?」
ゆつぎ「ごめんなさいね、あの子ならさっき出かけたところなの。男の子が迎えに来てくれて」
律(……男?)
その言葉にフリーズする。
ゆつぎ母「小学校のときに同じクラスだったって。木嶋くん?って言ってたかしら」
律(木嶋――)
脳裏に、数日前の笑い合うゆつぎと木嶋の姿が蘇る。
律(……なんであいつと?)
ぎゅっとこぶしを握り、苛立つ表情。
ゆつぎ母「それでね、あの子浴衣だから下駄を履いていったんだけど、替えの靴を持っていき忘れたのよ。途中で痛くならないといいけど…」
※手に持っている替えの靴が入った紙袋を持って心配顔。
律(そうか、足のケガがあるから…)
律「俺が渡しに行きますよ」
そう言って紙袋を受け取って走り出す。
地面を蹴る足に力を込めて、祭り会場へと一直線に向かう。
律「……っ、間に合え」